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マルセル・ドブロイ助手先生は、はとこ

「お姉ちゃま――! 勝ちました! 誉めてください――っ」


 オデットが飛び跳ねながら叫んでいる。本当に落ち着きがなく、お恥ずかしい限りだ。どなた様もすみません、と心のうちで謝る。


「すごい、立派」


 軽く手を打ち合わせ愛想程度に誉めるアデルに、マルセルが苦笑する。


「もう少し心を込めてやればいいのに」

「いいの、あれで満足なんだから。あんまり誉めると次からも欲しがって大変」

「アデルの物言いが老けているのは前からだけど、拍車がかかったな」


 老けているは、失礼だと思う。せめて「大人びている」と言って欲しい。


「だって、みんながお姉さん扱いするんだもの。期待にお応えして年長者っぽくしてるの」



 年上といってもひとつやふたつ、とマルセル助手先生は思っているのだろうが、アデルから見ても三年生はすごく大人に思える。当事者にとって一年の差は大きい。



「なるほど。せっかく学生になったのだから、アデルもいい相手をみつけて――」

「こっちからいかないと、男子からは来てくれない?」

「他意はないよ」



 参ったなと、マルセルが額にかかったシルバーグレーの髪をかき上げる。アデルとよく似た色の髪を持つ彼は、はとこにあたる関係だ。


 誰にも聞かれないから言わないだけで、隠すつもりもない。この学校の卒業生で今は助手先生だ。



「『何事も経験を積まないと、初めてで成功を収めるのは難しい』という先輩からの助言だよ。『いつか、いつか』と思っているうちに他の誰かと付き合いはじめて、卒業と同時に婚約するってこともあるからね」


 しみじみと言うところからすると、体験談なのだろう。十歳離れているので、マルセルの在学中に何があったかをアデルは知らないが。


 付け加えるなら、マルセルはまだ独身だ。とても頭がいいし見目も悪くないのにと思いながらチラリと見ると「わかったかい?」と目配せを寄越す。



 恋……。したけれど、悲惨な結末に終わった。コリンヌもコゼットも。

四度目になるまで気付かなかったが、アデルは前世の記憶持ちだった。そして男を見る目がないのと、男運が悪いのは身に沁みていた。


 恋をせずに結婚しても幸せとは言えなかったから、これは私が悪いんじゃないと思う。


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