偽装彼氏の契約延長期間は半年
カペルとジェラールはケガをしていて、オデットは指人形になっている。
年末年始の浮き浮きした気分とはほど遠いアデルに、ジェラールは屈託なく言った。
「約束の偽装彼氏は今日までだけど、半年延長が可能になったぜ。どうする?」
出席日数の不足で卒業が延びた。足りない単位は前期で取りきれるから半年なのだろう。
「延長しないと、どうなりますか」
ズルいけれど質問に質問を返す。それについては考えていなかったようで「うーん」とジェラールが腕組みする。
枕を背もたれがわりにして寝台で半身を起こした彼の隣では、ハンカチの寝床でオデットが就寝中。
アデルがジェラールの部屋に入り浸っているので自然にオデットもそうなる。
「俺はなんでもいいぜ。大親友でも憧れの先輩でも。なんにしろ長い付き合いでお願いしたいね」
冗談にも「彼氏」とは言わないのだなと思ったけれど、アデルから言うことじゃない。
マルセルの手紙には、人形師の手元に原型があるのでオデットの「体」は半年でできるとあった。
今のように動かせるようになるには一年くらいかかるかもしれない。
前回は二年を要した。アデルの入学が一年遅れたのは、計画が予定通りに進まなかったせい。見切り発車してお昼休みに調整することでしのいだ。
今回は二度目だから大幅に短縮できるはずだ。
マルセルと両親からオデット不要論がでなかったことに、アデルは胸をなでおろした。
オデットは家族の一員だと誰もが思ってくれている。
最短で一年半。その間オデットは通学できない。そしてアデルも魔力量測定を済ませたので、別の学校へ通ってもかまわない。
高等専門学校は中退になってしまうけれど、入学するだけの学力はあると証明できたからそれでいい。
オデットは疲れ知らずの老化知らず。でもそのオデットを常時動かすだけの魔力が今の自分にあるかどうか。
そこはマルセルに案があると信じたい。ああ、考えることが多すぎる。
いつの間にか物思いにふけっていたアデルは、ジェラールが手招きしているのに気が付かなかった。
「アデルちゃん」
呼ばれて寝台の側まで行くと、握手の形で手が伸びた。アデルが握るとそれより少しだけ強く握り返される。
「新年おめでとう。今年もよろしく」
真夜中、そんな時刻になっていたらしい。ずいぶんと夜更かしをしてしまった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「カペル君も今夜はまだ起きてるんじゃないか。挨拶してから寝たら」
オデットちゃんは預かっておく。ジェラールはお兄さんの顔をして、そう勧めた。




