前前世 羊飼いと門番の娘・1
アデルとして生きてきて、ふとした拍子に思い出して気になったのはファビアンの体にあった傷跡。牛にやられたと笑っていたあれは、刃物の傷だった。
「探検家だったんだ、自称ね。お宝探しと言えば聞こえはいいけど、ほぼ盗掘が仕事」
「それで切られたり? なにもそんな危ない仕事をしなくてもいいのに」
アデルが唇を歪めると、カペルは仕方なさそうにする。
「宝珠の力を使えたと思っても、生まれかわりを自分の目で見るまで信じられない。手がかりもなし。宝珠に関わる仕事をしていれば、いつか巡り会えるんじゃないかと考えた」
だからといって盗掘を仕事にするのは……。じゃあ他にどんな職がと聞かれても思いつきもしないけれど。
「羊飼いは仮の姿だったわけね」
「ごめん。怒ってる?」
その顔はずるい。ファビアンそのままだもの。
「昔すぎて怒る気も湧かない。当時のいきさつを教えて」
ファビアンが、レイノーだった時の記憶を持っていると気がついたのは七・八歳の頃。親は鉱夫で漠然と自分も山で生きていくのだと思っていたのに、世界が変わった。
体ができた頃に山をおり力仕事をするうちに、体力を買われて探検隊に誘われた。
そして独立。便利屋みたいなものから怪しげな仕事まで、片端から引き受けた。
ある日、人づてに依頼がきた。
「このあたりのどこかにあるというお珠様を入手して欲しい」
続く指示は「村人に気付かれることなく持ち出すこと」
相互監視を目的としてか、初めて会う同業三人と即席チームを組まされ、羊飼いに扮して向かった先にコリンヌがいた。
健康的で朗らかに笑う彼女に、コゼットを思わせるところはない。でもファビアンには彼女がコゼットだと分かって、泣きたいほど嬉しかった。
洗濯をする彼女を眺めて、のんびり話して、世話をやかれて、恋をした。
他の候補地に宝珠はなく空振りに終わった。残るはコリンヌの父が門番を務めるこの村だけ。
コリンヌの話を聞いて、まず間違いなく「お珠様」はあると確信した。
でも盗んでしまったら、コリンヌと父親はどうなる?
ここで暮らすことが彼女の幸せなのに、自分が来たことで乱してしまう。
仲間を裏切り良からぬ企てを伝え、お珠様を別の場所に移してもらうべきか。しかし彼女の一存でできることではない。どうすれば。
決めきれないうちに、他の三人が集結した。




