続 同級生フレデリック・カペル君
「一年生唯一の飛び級入学で、十五歳ですって」
カペル君は、一年遅れで入学した私よりふたつ年下。おしゃべり好きなのに語彙力の足りない妹を、アデルが補う。
「そりゃまた、優秀だな」
「お顔は?」
不肖の娘ですみませんと謝ったりはしないアデルに、ここのところまた一段とふくよかになった母が尋ねる。
ブラッスールが体面を保っていられるのは、嫁いでくる女性が実家から多額の持参金や物品をもたらすことによる。母も男爵家の娘であるが、実家は裕福だ。名ばかり伯爵家でも、名は大切らしい。
「かっこかわいい」
優秀な同級生の外見を一言で片づけるオデットに、父が渋い顔をする。
「そんな言葉をどこで覚えたのかね」
オデットは学校で新しい知識を得たようだ。誰かが彼をそう評したのを覚えて使っているのだろう。
近くで彼を見たことはないけれど、アデルの印象も似たようなもの。まだ体の線は細く顔立ちがすっきりしていることもあり、女の子よりよほどかわいい。
あれが五年もすれば、女泣かせの色男になるのだと思われる。
「どんな子なの?」
「みんなに優しい」
「危険だわ」
思わずつぶやくと、性格を聞いた母と、「カペル君は優しい」と答えたオデットが揃って首を傾げ、こちらに注目する。
説明のしようもなく、アデルは肩を一度上げ下げして話を終わらせた。
「体の弱い」アデルは運動の授業には参加しないと、あらかじめ学校にも伝えてある。が、単位を取得する為に見学はしなければならない。
本日の授業は、棒を剣に見立てふたり一組で型を披露するもの。体に当てたりはせず、正確性や勢いといったものを点数化して優劣を競う。習うのは初歩の初歩だ。
合同授業で見える範囲には、オデットもいた。
「体調はどう?」
高等専門学校で助手を務めるマルセル・ドブロイがアデルを気にかけた。
「疲れは入学当初より、かなりマシ。慣れたみたい。それより毎日毎日オデットの話が長いのに参ってる」
素直に伝えると、マルセルが他人にはわからない程度に微笑んだ。
「そういう風にしつけたんだろう」
「これまでは常に一緒にいたから、こんなことになるとは思わなかったの」
同じ家に住みいつも行動を共にしていたから、オデットの熱い語りはいらなかった。
別行動している間のことを一生懸命に話すオデットに付き合っていると、家でなにもできない。なんて、マルセルに泣き言を言う。
「でも、オデットはそうでなくちゃ。だろう?」
入学前からアデルとオデットをよく知るマルセルにそう言われると、返す言葉がなかった。