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カチカチ先輩と小さいオデット・2

 難しい話は面倒だと言ったのは、アデルちゃんの話の腰を折りたかったわけじゃない。

今日一日が濃密でこれ以上難しい話は無理だと頭が拒否するから、従っただけだ。


「疲れているのに、ごめんなさい」


 恐縮して小声になってしまったアデルちゃんに「キツく聞こえたんなら、悪かった」と謝る。


 なにも悪くないアデルちゃんに謝られてばかりだから、そのうちオデットちゃんに俺が叱られるんだろう。



「今日はこのへんで」


 オデットちゃんを連れて出ようとするアデルちゃんにわがままを言って、指人形オデットちゃんを残してもらった。


 寝息なんてするはずもないのに、すやすやと聞こえる気がするから不思議。



 思い出すのは、我が身を犠牲にする直前のオデットちゃんだ。


 始めからずっと怯むことなく軽やかに飛びまわって戦うさまは、緊張を解してくれた。

こんな小さな女の子が頑張っているのに俺が怖気づいてどうする。


 俺は実力以上を出したと言い切れるが、オオトカゲの強さは想像以上だった。精霊だから仕方ない。しかもアイツは露骨に贔屓をする性格だった。俺だけに容赦がなく当たりがきつい。



 打開策が見つからないなか、アデルちゃんが捨て身の攻撃に打って出た。

思い返せば、カペル君は驚いていなかった。その前から予測していたのだろう。



「カチカチ先輩『よく頑張りました』をあげます。先輩は弱っちくないです、また一緒に遊びたいです」


 別れを予感させる、オデットちゃんの透明感のある眼差し。

あの場面を忘れることは、一生ない。


 どこまでも彼女らしい物言いに心が震えた。こんなに真っ直ぐな女の子を、俺は他に知らない。



 アデルちゃんの非情な決断は、集中的に攻撃を受けた俺のため。その冷静極まりない作戦を、オデットちゃんが粛々と実行した。




『よう、オデットちゃん。ご機嫌だな』

『オデットはいつもご機嫌です!』


そんなやりとりが大切なものに思える。


 女の子に物を贈るなんてよくあることで、あげた物は記憶に残らない。

でもオデットちゃんのカチカチケースは別。試作してもらい、実際に背負うことまでしたこだわりの品だ。



 オデットちゃんが大喜びして片時も離さないので、学校へ持って行かせないようにするのが大変、と聞いて笑ったら、ブラッスール夫人に叱られた。


それほど気に入ってくれたことが嬉しかった。



「まいったな、頭がオデットちゃん一色になっちまった」


 聞こえるように言っても、反応はない。明日の朝アデルちゃんが起こすまで動かないんだろう。


「走れるようになったら、遊びに行こうか。オデットちゃんの行きたい所に。でもきっと『お姉ちゃまの行きたい所がいいです!』だな」



 サイドテーブルの上の指人形オデットちゃんに話しかける俺は、間違いなく「特殊な趣味の男」。

 筋肉痛がひどく熟睡できない今夜は、オデットちゃんのことばかり考えてしまいそうだった。


 

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