前前世前前前世とオデットの秘密・5
「お姉ちゃまのところへ行きたいのに、足がないっ」
指をいれるためにスカートになっているから足はない。
「それを言うなら、お手々もないでしょ」
アデルの指摘に、オデットは目に見えて動揺した。絵筆で描かれた簡素な目鼻なのに、表情が伝わるから不思議。
「手も……ない!」
おしゃべりができれば問題ないんじゃないかな。泣いていたのも忘れてアデルは笑ってしまった。
「それにしても、いつの間に? こんなことがよくできたわね」
「お姉ちゃまは『すぐ会える』って言ったけど、お姉ちゃまの『すぐ』はすぐじゃないので」
嫌味を言われているように聞こえても、オデットにしてみればただ正直な感想なのだろう。
「カペル君に貸してあげたオデット姫にお引っ越ししました。かじられてすぐです」
「オデット、びっくりするほど有能ね」
んふふと、オデットが嬉しそうにした直後「がっかりです」と呟く。
「お姉ちゃまにぎゅっとできない……」
「持ち歩きやすいから、慣れたら結構いいかもよ」
生き人形はとても高価。新しく同じものを作ってあげると簡単に約束することはできない。期待させておいて「ごめんね」では可哀想だ。
それにアデルの魔力量も隠すほどではなくなっているので、父が「お人形遊びをする歳でもないだろう」と、お金を出し渋ることもあり得る。
「オデットさんについてはカペル家が弁償します。弁償はおかしいかな、とにかく元の生活ができるようになるとお約束します」
アデルが返事をする前にオデットが申し出に飛びつく。
「それなら、お姉ちゃまとおんなじお顔にしてください! 」
「嫌よ、毎日向き合って暮らしたいほど綺麗な顔じゃないわ」
「お姉ちゃまは誰よりも可愛いお顔なのでっ」
アデルの言葉を聞き流したオデットが言い募る。本気で言っているのなら、美的センスがおかしいと思う。
「お姉ちゃまが大大大好きなので!」
「うん、わかる。でもアデルさんはオデットさんのお顔が好きみたいだから、同じがいいんじゃないかな」
カペル君はオデットの扱い方を心得ている。アデルは内心舌を巻いた。
「……お姉ちゃま?」
本当かと疑うオデットの声音。今さら双子になるのは避けたい。
「見慣れたオデットに会いたいわ」
我ながら嘘くさいと思ったのに。
「お姉ちゃまがそう言うなら」
オデットが照れた。
「……オデットちゃんの声がする。俺も死んだのか」
力の抜けた声がした。地に寝そべり空を見上げたジェラールだ。
どうやら気がついたらしい。先輩は生きています、カペル君も私も。少し様子は変わっていますがオデットも。
ジェラールにならってアデルも空を見上げた。




