前前世前前前世とオデットの秘密・4
マルセルと立てた作戦の最終手段は「人形」に振り分けていた攻撃力と魔力を「人形を壊す」ことでアデルに戻しオオトカゲと戦う、というものだった。
オデットに全振りしていたから魔術が使えなかっただけで、かつてはマルセルと訓練した時期もある。
当時のマルセルの感想は「国が不安定だと『戦乙女』とか『救国の少女』と呼ばれて、為政者に都合よく使われ最終的には切り捨てられるんだろうね。生まれてくる時代を間違えなくてよかったよ」だった。
カペル君ほど巧みに使えないけれど、威力で補って余りある。それがアデルの魔力だった。
今は惜しみなく魔法球の魔力を放出したせいで、桁違いに魔力量が減少していると自分でも感じる。
体を休めれば魔力量も回復するはず。それでも以前ほどにはなりそうもない。
ジェラール先輩は気力体力の限りを尽くし満身創痍。カペル君の腕も素人目には動きに支障はないものの、かなりの血を流した。
それに比べてアデルは傷ひとつない。オデットがひとりですべてを引き受けてくれたからだ。
「オデット……ごめんなさい」
何度目になるかわからない詫びが口をついて出る。
後追いしてばかりなのをちょっと面倒に思ったことがあった。ところ構わず愛情表現が過多であることを恥ずかしく感じて冷たくしてしまったことも。
優しくしてもないのに、あんなに慕ってくれて。
「オデット……ありがとう、大好きよ」
また涙が溢れた。
このままでは、ジェラールの体が冷えてしまう。上着を掛けて少しでも温かくしなくては。
ノロノロと立ち上がるアデルの視界に、戻って来るカペルが入った。
体の前で両手で水をすくうような形を作っての急ぎ足。
不思議に思いながら涙を拭くと空耳が聞こえた。
「お姉ちゃまっっ。誰に泣かされましたか。私がやっつけます!」
オデットの言いそうなことを作り上げてしまうほど、心弱りしているらしい。
「カペルくんが遅いのが悪いです!」
悪口の幻聴なんてあるだろうかと疑問に思っていると、カペルが苦笑した。
「ごめん。これでも急いだのだけれど、オデットさんほど速くは走れないよ」
「ほんとです。今度走り方を教えてあげます。カペル君でも頑張れば速く走れるようになります」
なんだろう、声だけで横柄な態度と表情が想像できる。
「……オデット?」
「はいです! お姉ちゃま!」
喜び勇んだ声がする。でも姿はない。
「ここです! ここ。ちょっとちっちゃくなっちゃったかもです」
「わけが分からないわ」
困惑するアデルに、カペルが手を差し出した。水や砂をすくっていたのではなく、あったのは指人形。
アデルがオデットにお土産として買ってきて、オデットがカペル君に貸してあげたもの。
それが「お姉ちゃま、お姉ちゃま」とおしゃべりをしている。
出ていた涙が引っ込むわ、とアデルは口をあんぐりとして指人形を見つめた。




