前前世前前前世とオデットの秘密・2
カペル君がレイノー様でファビアンだなんて。
神官だっただけあって、アデルひとりで流している時より、安定して魔力が流れる。
いつの間にかオオトカゲは日向ぼっこをしているような満ち足りた様子になっていた。そのうちゴロリと寝転んでも驚かない。
「足りたみたいだ」
カペルが言ったのは、オオトカゲが左右に首を振った時だった。
魔力が底をつかなくてよかったと思う。正直不安になってきたところだ。
ほっとすると同時に倦怠感が押し寄せる。いつものことと、アデルは地面に腰を下ろした。
「コリンヌ、大丈夫?」
「なんとか。しばらく休んだら動けるわ」
それより。
「精霊様が、なにか言いたそう」
オデットがはしゃぎ過ぎて叱られてしゅんとした時、「ごめんなさい」がしたいのに言いだせない気配と似ている。
「あんまりくっつかないで」と言われたけれどお姉ちゃまのそばにいたい、そんな感じ。
カペルはアデルの背中に添えていた手を離すと、オオトカゲの近くまで行った。その手に剣はない。
バカバカしいと笑われるの承知で言うなら、最初から武器を持たずに友好的な態度で向き合えば襲われなかったかもしれない、と思う。
「カペル家はずっと魔法球を探していました。戦うためだとばかり思っていましたが、そうじゃなかった。お返しするためだったんですね」
確かめるような言い方。
「この土地が肥沃なのはあなたのおかげだと伝わっています」
アデルには初耳だ。カペル家ではその恩恵は人身御供と引き換えだと考えていたのかもしれない。
昔話として残るくらいだから、オオトカゲの「お友達」は故郷に戻らずここに住んだのだろう。
カペル家に伝わる話と昔話が違う理由をアデルはそう結論づけた。
「魔力が満ちた今、もう人に用はないのかもしれません。ですが僕は精霊様のことを、カペル家として後世にきちんと伝えたいと思います。また会いに来ていいですか」
オオトカゲが首を傾げる。かわいい……かもしれない、小さかったら。
「いつ? まずは明日。住まいはどちらですか、来ていただくのも失礼なので僕が伺います」
これは寝ぐらに誘導しようとしているのでは。そしてオオトカゲは話に乗った。
体の向きを変え、ついてこいとカペルを振り返る。
後ろにいるアデルから見ると、話しながら散歩しているようなひとりと一匹――ではなく、ひとりと精霊だ。
残されたのはアデルと横たわるジェラール、そしてオデットだった。




