前前世前前前世とオデットの秘密・1
オオトカゲに直に魔力を渡すことはできない。そこを体内に取り込まれたオデットが仲介する。
ジャマン先生の集めた民話のひとつ、精霊である火吹きオオトカゲの話が事実に基づくなら、オオトカゲは空っぽの魔法球を抱えているということになる。
魔法球の魔力を空の魔法球に移すことは可能なのか。
油断なく目を光らせるカペルを押しのける形で、ゆらりとジェラールが立ち上がった。
「よくも、オデットちゃんをっ」
「ルグラン先輩、オデットさんなら――」
「俺は!ふたりを無事に連れ帰らなきゃならないんだ」
カペルの話を遮るざらついた声は、普段のジェラールのものではない。
そこにふたり立たれるとオオトカゲの様子が見えない。アデルが言いかけた時。
風を巻き起こし目にも止まらぬ速さでオオトカゲが横に移動した。
次いでジェラールが倒れる。地面にぶつかる前にカペルが抱きとめたので、頭は打たなくて済んだ。
アデルは踏ん張って一歩も動かなかったが、近い位置のジェラールは膝を痛めたこともあり、風圧に耐えきれなかったらしい。
オオトカゲはオデットの体を踏みつけている。できるだけそこに目を向けないようにするアデル。
カペルも同じく、意識のないジェラールだけを引きずり離れた場所に移す。
動かすのは左手が主。血を流した右は感覚がないのかもしれない。
アデルは場の状況をつぶさに見ながらも、オオトカゲに魔力を送り続けた。
「オオトカゲが穏やかになった」
剣を重そうに下げたカペルが、アデルの隣まで戻った。
「コリンヌ、僕に魔力は残っていないけれど、魔法球から効率よく魔力を引き出す手伝いはできる。神官だったからね」
足元に剣を置いて、驚くべきことを口にする。
魔法球の力を引き出す方法は歴史に埋もれてしまい、今は知る人のいない知識とされる。
「神官?」
「当時はまだ魔法球の力の引き出し方を知る者は多かった。実際に使ったことのある者は、ごく少数だっただろうけど。レイノーと名乗れば分かってもらえる?」
カペルの表情がぐっと大人びて見える。レイノー、レイノー。どこかで聞いたような。アデルの全身を衝撃が貫いた。
「コゼットだった時の神殿のレイノー様!? 私が床磨きばっかりしていた時の! それにそれに、カペル君、さっきから私のことコリンヌって呼んでる!」
聞きとがめるのが遅れに遅れたのは、それどころじゃなかったから。
「ファビアンだからね」
「カペル君が!?」
「コリンヌ、この話は後にしよう」
カペルは背後にまわり、前に突き出したアデルの両腕を下支えする形に腕を添えた。
「オオトカゲがとても落ち着いてきた。カペル家の人間を食うのは、魔力を取り込むことが目的だったんだね」
それを先に知っていたとしても、魔力を他に渡すことはできないから、カペル家から犠牲は出る。
過去との違いは魔法球を持つアデルがこの場にいることだ。




