同級生フレデリック・カペル君
アデルの通う高等専門学校には、飛び級制度がある。
今年飛び級入学を果たした男子は、すでに有名人だ。
一年早い入学を許可された彼はフレデリック・カペル、オデットと同じクラスになった。
ブラッスール家と子爵カペル家は浅からぬ縁がある。
アデルの曽祖父はろくでなし伯爵で、弱いのに賭け事が大好き。ある時負けがこみ、起死回生を狙っての大勝負に出た。それも当然のように負け、領地から本邸まで取られた。その相手が当時のカペル卿。
信頼できる筋からの情報によると、カペル卿は再三再四「もうお止めになりませんか」とおっしゃったらしい。
それを振り切り賭けを続け、すっからかんにしたのがアデルの曽祖父。
カペル卿は曽祖父の名誉を傷つけないよう配慮したうえで、首都にある家を残してくださった。
だからカペル家には恩がある。と言いながら、アデルの父はカペルと聞くといい顔はしない。
勝者はあちらで、お情けをかけていただいたのはこちら。爵位はこちらが高いとはいえ、資産は比べ物にならないほどあちらがお持ち。
さらに子供の出来にいたっては、天と地ほどの差がある。
オデットと同じクラスというだけで、接点はないだろう。どちらにせよ、アデルにはカペル家のご子息に近づくつもりはなかった。
オデットはおしゃべりな子で、今日あったことをアデルにすべて話さないと気がすまない。
下校する馬車から夕食の時間までかけて、一日の出来事を時系列で話すので、家族はよそ事をしながら興味のあるところだけ質問するという習慣ができていた。
「でね、カペル君が」
「ちょっと待った、オデット。今カペルと言ったか」
パイプをくゆらせながら紳士倶楽部の会報を眺めていた父が、オデットを止めた。
「カペル君」
オデットはどこまでも無邪気に繰り返す。ダイニングルームを出て小間で食後のお茶など飲んで、そろそろ個室に引き上げようかというタイミングでカペル君? と、アデルは思うけれども、お構いなしなのがオデットだ。
フレデリック・カペルは濃紺の髪に明るいオレンジ色の瞳だと、オデットが父に説明する。
暖色系の瞳を持つ者は、魔力量が多いとされている。その魔力は自分の為ではなく世のため人のために使わねば、家の評価が落ちる。
「そのカペル君は、よくできるのか」
「すごく」
オデットは自分のことのように自慢げに鼻をひくひくさせた。