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私達だけの負けられない戦い・4

「これは、また消されるぜ」


 ジェラールの言葉通り、オオトカゲから白い煙が立ちのぼる。


 アデルの不確かな記憶によれば、伝説の火トカゲは水を操るのだ。精霊が相手では、カペル君の火魔術といえども優位に立てる気がしない。



「カペル君、ここまでに魔術を連発したんじゃねえか。肩で息してる」


 ジェラールが槍の頭部を地面近くに下げた。槍を使わないアデルにも、この状態から大きく振りかぶって落とせば強力な一撃になると分かる。



「魔術が効かないとなりゃ、俺にも見せ場があるってもんだ」


 口笛でも吹きそうな軽快な口調は、あえてだろう。状況は思っていたより悪いと、あらためて言い合ったりはしない。



「じっとしていてください、先輩」


 後ろは槍の先が危ない。アデルは断りを入れて、ジェラールの胸に寄り添うようにした。体を通して、斧槍に魔力を流す。


「動きたい。抱くくらいいいだろ」


頭上で囁いて、空いた左手でアデルを抱く。



「ふざけないで」

「怖っ。なあ、アデルちゃん。アデルちゃんは、こっから動くな。俺らは即席のチームだから、呼吸を合わせるのに慣れてない。状況を見て指示を飛ばしてくれ」


顔を見るまでもなく、真剣さは声からも伝わった。



「精霊相手に、俺の魔術は無力だ。体力にものを言わせるしかない」

自嘲するでもなく、淡々と続く。

「オデットちゃんは、余力があるうちに下がらせてくれ。これは俺達の戦いではあるが、ケツを持つのはカペル君だ。俺はオデットちゃんアデルちゃんを家に帰さなきゃならないから、ここで倒れるわけにはいかない」



 返事をしなくてはと思った。でも「はい」が言えない。だってそれは、最悪カペル君ひとりを残して退くということだから。


ジェラールはアデルにそれ以上の返事を求めなかった。


「行ってくる」


 魔力をまとった槍を持ち直し、アデルの髪をさらりと撫で、ジェラールは足早にオオトカゲに向かって行った。








「よう、オデットちゃん。待たせたな」

「オデットはご機嫌です!」


 今そんなことは聞いていない、ここで「ご機嫌」とは恐れ入る。とは言わずに、ジェラールはオオトカゲを睨んだ。近くで見ると、鱗の質感がより重々しく迫る。


 これを前にしてもマイペースを維持するオデットを横目に、カペルに声を掛けた。


「司令官はアデルちゃん、でもって司令官殿がカペル君をお呼びだ」

「でも」

「その肉切り包丁みたいなヤツ、魔力をまとってないだろ」


 カペルの手にあるのは、先端の太い見慣れぬ型の剣。断ち切ることを目的として作られたもののようだ。魔力を加えればより強靭になる。



「ここはしばらく任せてもらうぜ」

「お願いします」


立て直せという意図が伝わり、ようやくカペルが頷く。



「オデットちゃん、狙うのは目玉と首、口の中だ。俺は側面から行く。正面を頼む」

「はいです!」


 元気がいい、必要なのはこれなんだ。ジェラールは目を細めた。


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