私達だけの負けられない戦い・3
底光りする金色の目。するとオオトカゲの体からもうもうと白煙が立ち上り、アデル達の視線は釘付けになった。
「火、消えました!」
オデットの言う通り。水蒸気のようなものが風に吹き流され現れたオオトカゲの体は、火に包まれたことなどなかったかと思うほど滑らかで、焦げもない。
「嘘だろ、おい」
ジェラールの呟きは総意だ。カペル君の威力が不足していたか、鱗が恐ろしく丈夫で火を通さないか。
混乱している場合じゃない、アデルは気を取り直した。
「オデット、火ばさみを最強にしてあげる。今日だけの特別カチカチよ」
オデットには触れなくても魔力を渡せる。火ばさみが輝きを帯びた。
「やったーです! お姉ちゃま!」
さあここからと思った時、オオトカゲが出していた舌を引っ込め、火を吐いた。
「オデットさん!!」
カペルの絶叫するなか、瞬きも忘れたアデル。
しかし赤い炎はオデットの前で折り返し、吐いた口に戻る。
よく見れば、オデットが両腕を伸ばして火ばさみを交差させ、盾のようにしていた。
「火のお返しをくれたので、私がお返しのお返しです!」
元気に笑うオデットにダメージはないらしい。それは喜ばしいけれど、問題は他にある。
「オオトカゲって火を吹くものなの!?」
毒液を吐くならまだ分かる。火を吐くって、火を吐くって……ない。驚愕するアデルの隣から、ジェラールが冷静に言う。
「精霊なら、なんでもアリなんじゃねえか」
「精・霊?」
なにそれ、初めて聞きました。
「言ってなかったっけ」
「初耳ですっ」
アデルの物言いがオデットじみている。ジェラールがへこりと首を動かした。
「悪い、俺も信じてなかったから、抜けた。ジャマン先生が聞き取りした民話に出てくる精霊とこれが同一とは思わなかった」
元がジャマン先生なら、話半分に聞いてしまったのも分からないでもない。となると、先輩が先日してくれた昔話は最近仕入れたもの。
子供の頃に聞いた話をよく覚えているものだと感心しつつ不思議に思っていたから、納得がいく。
けれど、そうなるとマルセル考えた作戦が全く役に立たない。
頭を必死に回転させるアデルの前で、カペルが再び火魔術を駆使してオオトカゲを攻めた。
さすがの技量ですぐに炎が全身を包む。
――が。
「なにやら、心地よさげにしてねえか。砂浴びならぬ火浴びで体に寄生した虫を落としてる的な」
ジェラールが言うように、アデルの目にもオオトカゲが炎を苦にする様子はなく、むしろ愉しんでいるように見えた。




