私達だけの負けられない戦い・2
目につくのは、紅葉樹の林。馬車から飛び降りるなりオデットが駆け出した。
背中に背負った赤い火ばさみ入れが上下に揺れて軽い音を立てる。
アデルは見失わないよう後ろ姿から目を離さずに後を追った。
まだお昼前。日が落ちるまでは時間がある。幸いにも雨の心配はない。
この場所にカペル君がいるというなら、下調べに来たかオオトカゲと戦っているかだ。
マルセルが言うには、オオトカゲは水のある場所に住むらしいから、ジェラール先輩の水魔法も使える。
カペル君は火種を用意して出て、魔力で増幅させ戦っているに違いない。基本的に動物は火を恐れる。オオトカゲといえども、そこは同じだろう。
「カンカンカン! 目標を発見! 本隊合流します!!」
「助っ人」か言っても「援軍」だと思うのに、自分を本隊と言ってしまうのはどうなのか。
「カペル君! まだ大丈夫ですか!」
オデットは速度を緩めることなく器用に右手を動かすと、腰の位置にあるケースの蓋を外し、火ばさみを取り出した。
両手に一本ずつ持ち、高い声を響かせる。
「オデットとお姉ちゃま、登場!」
そのまますぐカペルの隣に並んでしまった。
アデルが事前に聞いていた通り他に人の姿はない。ひとりで戦わせるなんて、命を軽んじること甚だしい。
「危ないから、来ちゃだめだ」と言いたかっただろうカペル君、ごめんなさい、もう遅い。
思うアデルの視線の先で、彼は信じられないという顔をしていた。
「え、あ、オデットさん!?」
「はいです。カペル君、ボロっちくなってますね」
カペルの上着の袖は破れ、服の所々が汚れている。革の胸当てを着け革のブーツを履いているけれど、どちらにも擦ったような跡がある。
そして、対峙しているのはオオトカゲ。
アデルの予想通り、火魔術を行使したらしくその全身は火に包まれていた。離れて立っていても、熱を感じるくらいだ。鱗のある巨体。
「鱗? あれで剣は通るの?」
「アデルちゃん知らなかったか、トカゲや蛇には鱗があるぜ。うわ、でもあれはめちゃくちゃ硬そう」
追いついたジェラールが、身長より長い斧槍を地に立てる。
「オデットちゃんに省かれたから、自分で言わねえとな。俺も参上!」
高らかな名乗りに、オオトカゲの目がこちらを向いた。