むかしむかしあるところに
「なにかお話して、お姉ちゃま」
馬車のなかでせがむオデットに作り話を聞かせていると、あまりの適当さに思うところがあったのか、「俺がひとつ」とジェラールが言い出したのは、先日のこと。
「俺の話、聞く?」
「面白いですか、それ」
「こら、オデット」
アデルには聞かないことを平気で口にするオデットに、ジェラールが苦笑する。
「面白くはないな。でも、お姉ちゃまの話の合間に聞くにはちょうどいい小話だ」
「じゃあ、聞きます」
態度の大きいオデットに苦情を言うでもなく、ジェラールは話し始めた。
「昔々、あるところに――」
賢いオオトカゲがいました。オオトカゲが大切にしているのは、綺麗な玉。それはえもいわれぬ色と光沢を持ち、ひとりきりで暮らすオオトカゲの心を慰めました。
玉さえあればオオトカゲは何もいらなかったのです。長い年月、オオトカゲは孤独を感じることなく過ごしました。
ある日、オオトカゲの前にヒトが現れました。
「こんにちは、きみは独り? 僕もひとりだから一緒だね」
ヒトは気取りなく近づいてきたので、オオトカゲはすぐに親しくなりました。
毎日のように会い話すうちに、初めは分からなかった「言葉」も理解できるようになりました。
「きみには大事にしているものは、あるかな。僕の大事にしているものはこれだよ。特別にきみに見せるよ」
それはキラキラと輝く石でした。
「これ以上綺麗な物は、どこにもないと思うんだ」
オオトカゲは、そんなことはないと思いました。なぜなら自分の持っている玉の方が綺麗だと思ったからです。
大切にしている玉を仲良しのヒトに見せたい気持ちが湧き、見せることにしました。ヒトは目を丸くして玉を褒めそやします。
「なんて綺麗なんだろう。こんな綺麗な物は見たことがないよ」
聞いてオオトカゲは、これ以上ないくらい得意な気持ちになりました。
「ね、少しの間、僕の宝物ときみの宝物を交換してくれないかな。あんまり綺麗だから、ゆっくり眺めたいんだ」
嫌だ、とオオトカゲは思いました。でも仲良しのヒトは、とても一生懸命に頼みます。
「心配しないで、僕の一番大切な物をきみに預けるから。僕達は友達だろう」
トモダチ。なんだか特別な響きです。オオトカゲは、ここで断ったら仲良しのヒトはもう来なくなるのではないかと思いました。
「ありがとう。必ず返すから、それまで僕の宝物を持っていてね」
トモダチの笑顔はオオトカゲの心を温かくしました。




