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あなたのためにできること・4

 父は行っていいと言ったのに、マルセルに反対されるなんて。

お互いの考えを探り合う無言の攻防を経て、先に口を開いたのはマルセルだった。


「……試験を欠席してまで彼が出向くということは、害獣駆除が危険だから当主と跡取りは近寄らないと考えるのが妥当だろう。ルグラン君は好きにすればいい、でもアデルはダメだ」


 有無を言わせぬ口調は、マルセルにしては珍しい。心配してくれているのが分かるから、腹は立たない。それに何を言われても行く。



 試験休みは生徒のはなしで、教師は通常通り仕事がある。どこまでも反対するなら、マルセルより後から家を出るだけだ。


 長く同じ家に暮らしているので、こちらの考えなどお見通しなのだろう。マルセルが前髪をくしゃりとして呻く。


「……どうして、こんなに聞き分けが悪いんだ」


 オデットに言うようなことを私に。アデルはつい笑ってしまった。



「笑うところじゃない」


 僕は本気で言っているんだと、マルセルの顔つきは真剣そのもの。


「もう一度言う。行くのはやめるんだ、アデル」

「はい、行きません」


正直に言うと面倒なことになると学んだばかり。


「その『はい』は、この場逃れの『はい』だ」


――その通りです。



「アデルが心配しながら待つのが嫌なのは分かる。でもそれは僕も同じだ。それに、カペル家の為にブラッスールが力を貸す必要はない」


 そんなに心配するなら、オオトカゲの話をしなければよかったと悔やんでも遅い。


「――アデル」


 この言い方は、内心反抗しているとバレた時の「アデル」だ。こういう時は謝るに限る。



「ごめんなさいお兄ちゃま、行かせて。カペル君の顔を見たらすぐに帰ってくるから」


マルセルの唇が、嫌味な角度を作る。


「見て、カペル隊が苦戦していたら、加勢するんだろう?」

「私の腕では、加勢にならないわ」



 形がいいのは余裕のある時。全力で打ち込めば、姿勢は崩れ剣に充分な力が加わらないと自覚している。実戦では役に立たない、余興だ。


 笑い方が自嘲気味に見えたらしく「卑下はよくないよ」と、マルセルが呟いて目を閉じる。しばらくして再び開いた時には、いつもの穏やかさに戻っていた。



「僕達の習った剣術は対人なのを忘れていないかな。獣相手はまったく別だよ」


正しい指摘をありがとうございます。


「魔力を使うなら、オデットを通すべきだろうね。オデットを前線に出して、アデルは後方より魔力を送る。もしオデットが倒れてもアデルさえいれば、立て直しはきく。魔力をどの程度残して引き時とするかは、あらかじめ決めておくべきだと思う」


 それを聞きにきたのだ。そこのところもう少し詳しく。

アデルは身を乗り出した。


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