あなたのためにできること・3
カペル君のご実家に遊びに行くジェラール先輩が「一緒にどう?」と誘ってくれたので行きたい。
アデルの願いは、あっさりと許可された。
「え、いいの? 試験休みの間に往復できないから、学校も欠席してしまうのに」
つい余計なことまで口にしたアデルに、そんなことは当然知っている、と父は頷いた。
「カペル家の本邸はうちの本邸だった館だ。この機会を逃すとアデルが立ち入る機会はないかもしれない。存分にブラッスールの栄華を堪能してきなさい。私も入ったことはないんだよ、ついて行きたいくらいだ」
羨ましさが覗く。栄華って、もはや残り香もないのでは。ブラッスールからカペルに紋章が置きかわって何年経つと思っているのお父様、という話。
しかも今回訪ねるのは、そこではなくカペル家が元々治めている領地にある村のひとつ。
本当のことを言うと行かせてもらえないかもしれないので、それは内緒。
「いつ出るの?」
母が聞くので「明日」と伝えると「お昼は持っていきなさいね。ルグラン君の分も作るわ」と、にこやかに言ってくれた。
騙すようで心苦しいけれど、気持ちよく送り出してもらう為には必要な嘘だ、とアデルは愛想笑いを浮かべた。
ここまでは順調そのもの。予想外はマルセルだった。
「カペル君はオオトカゲを退治しに行ったらしい。加勢しに行く」と正直に話したのが、いけなかった。
「オオトカゲ?」
マルセルの顔つきが、見る見るうちに険しくなる。
「そう、オオトカゲ」
「国内に生息していないはずだけれど」
「どこかから来て、住みついたのかも。本物のオオトカゲを知ってる人はいないのなら、本当はトカゲじゃないかも」
巨大なトカゲっぽいなにか。カナヘビかもしれないし。私だって見分け方は知らないと、アデルは軽く返した。
「大きさは?」
「知らない」
そんなことを見る前から聞かれましても。マルセルの険しさが増す。
「もし、それが本当にオオトカゲなら、尾までいれると僕の身長の倍になると、本で読んだことがある」
え、そんなに。アデルが驚いて固まると、マルセルは眉間に皺を刻む。
オデットはもうベッドのなか。出掛けることを伝えがてら魔力の使い方について助言をもらおうと考えて、マルセルの部屋を訪ねたら、話すうちに雰囲気がどんどん悪くなり今に至る。
「本当にオオトカゲが相手なら、勝てるわけがない」
それを言ったら……カペル君はどうなるの。アデルの責める気配を察して、マルセルが一呼吸置いて言い直す。
「そうだね、カペル君は討伐隊の一員として出るんだろうから、心配しなくてもうまくやるだろう。アデルが行く必要はないんじゃないかな」
「ジェラール先輩が行くって言うから、ついて行こうと思って。危なくないならいいでしょう」
「だめだ」




