あなたのためにできること・1
試験休みは今日から三日間という日の午後、ふらりとジェラールがブラッスール家を訪れた。
カペル君の予定は聞けていない。試験を全日欠席した、それはどういうことなのか。
気が急いて言葉の出ないアデルに、ジェラールが硬い表情で差し出したのは、開封済みの手紙だった。
差出人はフレデリック・カペル。
ひと様宛ての手紙を読むのはよくないという常識は、「読みたい欲求」にあっさりと完敗。アデルは急いで手紙を開いた。
見覚えのある筆跡。これまでの交友に感謝し、挨拶なしで旅立つ無礼を詫びている。そしてジェラールとルグラン家の益々の発展を祈る言葉で結ばれていた。
なぜ、わざわざこんな手紙を書いたのか。胸につかえるものを飲み下そうと、息を止めてはゴクリとしても、ドクドクと耳に自分の鼓動が響くばかり。
「ジェラール先輩」
呼びかけるのがやっとだ。
「カペル君からオオトカゲの話は聞いてるか?」
「知りません」
「やっぱ、アデルちゃんには言わずじまいか」
ジェラールが息を吐く。
「オデットちゃんも知りません」
聞かれもしないのに、オデットが深刻な口ぶりで話に加わる。何も分かっていないくせに、場の雰囲気に合わせているだけ。
「カペル君がどこへ行ったのか、先輩はご存知なんですね」
「カペル君がお休みするなんて、ないです」
ジェラールがアデルを見つめ、オデットに視線を移した。頭にポンと手を乗せられたオデットがくすぐったそうに首をすくめる。
「領地にある村のひとつに向かったんだと思う」
「なにか問題でも?」
淡々としたためられた手紙だからこそ、余計に不安になる。今わざわざ言う必要がない内容だ。
「いや、大丈夫。俺はちょい様子見てくる。戻ったらすぐに顔を出すから、アデルちゃんは心配すんな。オデットちゃんも」
瞬きをして快活な笑みを浮かべる。
オオトカゲなんて気になる言葉を出しておいて、その笑顔は無理がある。
カペル君の魔力量は多く、戦力となる。オオトカゲがどこかの村に出て、領主家の責務としてカペル君が退治に向かった、と読み解くのが妥当だろう。
悪評を恐れて業者を頼まないとしたら、苦戦が予想される。
だからジェラール先輩が「様子を見てくる」。
ムカデですら大変だったのに、大丈夫なのだろうか。オオトカゲがどれほどのものか見当もつかないけれど、一匹なのか複数匹なのかでも、ずいぶん違うのでは。
ジェラールのまとう空気は、アデルにも分かるほど張り詰めていた。




