唯一無二の贈り物と仲良し姉妹・1
オデットがごそごそとカバンから紙の束を取り出したのは、寝る間際だった。
「忘れていました! お姉ちゃま、明日カペル君にありがとうを言ってください。これをもらったので」
手紙にしては枚数が多い。めくって見れば、試験範囲をまとめた書きつけだった。
少し見ただけでも、とてもわかりやすい。こんな大切なものを試験の直前に人に渡すなんて、おかしい。オデットがくれくれとねだったに違いない。
「お姉ちゃまのために」とかなんとか、言ったのだろう。
アデルはオデットに向けて怖い顔をした。
「だめでしょう、オデット。これはカペル君が頑張って作ったのよ。横取りしてはいけません。お勉強は自分でしないと身につかないの」
今回も「マルセルの過去問集」を存分に活用して好成績を目指す作戦なのにどの口が……というご意見は受け付けておりません。
「めっ」とアデルが口にすると、オデットの口が不満そうに開いた。心外だとばかりに目も見開く。
「違いますです!カペル君がくれました!」
発想は突飛で、都合よく物事をねじ曲げることはあっても、オデットは嘘をつかない。でもどうして、カペル君は。アデルの疑問をオデットが先回りする。
「『もう僕には必要ないから』って」
「――さすがね、できる人は言うことが違うわ」
試験前夜は当然のことながら、当日の朝に必死に詰め込み「頭から零れませんように」と願いつつ試験の時間を迎える私と違い、カペル君は試験範囲を完璧に覚えたということなのだ。
アデルは感嘆の吐息を漏らした。
「お姉ちゃま。『もう私には必要ないから』」
何を思ったのか、オデットが嬉しそうにカペル君の真似をする。
「こら。まだ試験まで二日あるのに、簡単に捨ててはいけません。諦めてどうするの。いただいたなら、良い成績を取らないと申し訳ないでしょう」
オデットのおでこを指で軽く打って諫めると、唇が尖った。
「カペル君だと『ほうっ』ってなって、私だと『こら』なのは、区別です。カペル君だけお姉ちゃまに誉められて、ずるい」
「オデット、たぶん『区別』じゃなくて『差別』と言いたいんだろうけど、その考え自体が誤りよ」
ずるいって、なに。
むっとした顔は可愛いと思うけれど、言うと調子にのるので言わずにおく。
「お姉ちゃま、カペル君より私が好きですか」
「比べるのが間違ってる」
「世界で一番私が好きですか。私はお姉ちゃまが大大大好きです!」
膝に乗り上げて迫る圧がすごい。そんな風に熱烈に告げられて「いや、私はそうでもない」と言える人は、どれくらいいるのか。
「それは、どうもありがとう。私もオデットが好きよ」
「お姉ちゃまっ」
感激屋のオデットが抱きつくのを受け止めて。
「明日から、勉強しましょうね」
「……」
オデットからの返事はなかった。




