ルグランの真相
ルグラン家についての「噂」は、都市伝説の類。仕事の手際があまりに良いことが、依頼主に微かな畏れを抱かせたのだろう。
「平民にさせる」害虫駆除が、ルグランしかいないせいで「お願いする」形になるのが、上の階級の者にとって気に入らないこともひとつか。
もちろん、マルセルは噂を真に受けたりはしない。子ども返りしたようになっている今のジャマンになら効果があるかと、思いつきでした会話だ。
これでジャマンがアデルを諦めるかどうか。一旦は他を探しても、はかばかしい進展がなければ、性懲りもなく手を出してくるんじゃないかと予想する。
まあ、その時には実力行使しかない。
今日、オデットを目に入れなくて済んだのは幸いだったと考えつつ、放心しているジャマンを放置したままひとり玄関を出る。
「ルグラン君」
アデル達と帰ったとばかり思っていたジェラールが、柵にもたれて立っていた。
「アデルちゃんが気にするから、俺が残った」
簡潔な説明が返る。
この通りでは馬車が拾えない。大通りまで出ようとなった。
「この屋敷、ご近所さんが言うにはあんまり人の出入りはなかったらしいぜ」
待つ間に聞き込みをしたらしい。学業成績は良いとはいえないが、やればもっとできるはずだというのが、ルグランに対しての教師の総意だ。
進学就職の心配がいらないから、ほどほどに手を抜いているといったところか。
「付き合わせて悪かったね」
「俺が来たかったんで」
肩を並べ急ぐでもなく歩く。
「なあ、先生。アデルちゃんも本当は魔術が使えるんじゃねえか」
「どうして、そう思う?」
「オデットちゃんがあれだけ使えるんだ、アデルちゃんも使えていいだろ」
――惜しいとこまでも、いかない。そのあたり魔力量の少ない者の感じ方なのだろう。まだ教えては、やれないな。
「今のアデルは使えない。『これから先も絶対に使えない』とは言わないけれど、魔術なんて日常生活において使うことはないだろう? ステータスを表す一部であるだけだ。魔力量が多いと知られただけで厄介事に巻き込まれるなら、魔術まで使えてはより面倒が増えると思わないか?」
「それでか」
あんたがいてアデルちゃんの才能を伸ばさなかったのが不可解だった、とでも言いたいのだろうジェラールは。
この様子ならまだジェラールは心配ない。先に真相を知るのは、オデット経由で「飛び級生」かもしれない。
オデットに近付いたのは、ただの親切心か。はたまたカペル家に深謀があってのことか。
「探してると馬車は通らないもんだな」
マルセルと違いジェラールは、ちゃんと馬車を探していたらしい。
「いっそ歩いて帰ろうか」
提案に「げっ」と声を出すジェラールに、マルセルは肩を揺すって笑った。




