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お姉ちゃまを救え!・5

 行き帰り歩くのはちょっと。という訳で、マルセルは馬車を選択した。


 オデットの「あっちだ」「こっちだ」を、マルセルが馭者に分かるように伝えて、オデットが「ここです」と停めたのは人の気配のない邸宅だった。



広い通りから一本内側。


「貸家っぽいよな。たまに、こういった物件の仕事がある」


 話も聞かずに勝手に扉を開けようとしているオデットを急ぎ捕まえたジェラールが、マルセルに確かめる。


「本当にここでいいのか? ジャマン先生の自宅じゃないだろ」


 たしかにマルセルの知るジャマンの家ではない。

疑われたオデットが憤慨する。


「ぜったい、絶対ここです! カチカチ先輩はいらないコトしか言いません!」


 問題児のオデットではあるが、アデルの居所を間違えるはずはない。


「オデットが言うなら、アデルはここにいる」





 玄関扉を叩いて待つことしばし。応答はなく誰も出て来なかった。


「人の気配がまるでねぇな。どうする?」


 ジェラールが建物より少し距離を取って見上げているのは、上階の窓から外の様子を伺う人がいる可能性を考えてだろう。


 どうしようかと考えるマルセルの隣で、硬いもの同士がぶつかる音がした。


「オデット?」


 どこで拾ったのか、まあまあな大きさの石を左右の手にひとつずつ持ち、真顔で打ちつけている。


「これでガツンとして窓から入ればいいです」


本気で言っているから恐ろしい。



「待て待て、オデットちゃん」

ジェラールが慌てる。そして頭を掻くと続けた。

「この鍵なら、いけると思う」


「いける?」

「多少、鍵穴に傷は残っちまうが壊れはしない。傷もよほど細かい奴じゃなきゃ気付かない程度だ」


――錠前破り。鍵を用いず解錠する技だ。


「どこで覚えたんだい?」


 自然マルセルは呆れ口調になった。害虫駆除にいるのか、それは。きまり悪げにジェラールが言い訳する。


「手先は元々器用なんで。古い屋敷には、鍵を失くして入れなくなった開かずの間があるもんなんだよ。どうにかして開けるしかないだろ」


 仕事上必要な技術だと言われても問題はあるが、今回は見て見ぬふりをするしかない。窓を破って侵入するより穏やかだ。



「見られてると緊張するんで、背中向けててもらえますかね」


 見ていたら言い逃れできない。こっちも罪になると、視線を外したマルセルと違い、オデットは触れそうなほど近くにしゃがみこんだ。


「細くて薄い刃です」

オデットの声。


「これを上下に細かく動かして手応えを探る」

「私もやりたいです」

「オデットちゃんは、やんなくていい。見て覚えるなよ」

「がっかりです」



見なくてもオデットの不満顔は想像がつく。


「開いたぜ」


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