お姉ちゃまを救え!・4
俺も行くと言うジェラールに、オデットは迷惑そうに「なにを今さら」という顔をする。
「ごめん、ごめんってオデットちゃん」
「ふんっです」
ぷいっと横を向いて、ジェラールと目を合わせようとしない。
「オデット姫、どうかこの下僕もお連れください」
胸に片手を添えて頭を垂れる姿に多少の興味を引かれたらしく、ちらっとは見た。でも、それだけ。
オデットが嫌がるなら置いていく。マルセルが決断をくだそうとした時に。
「いつも持ってるカチカチ。あれを剣みたいに持ち歩けるケースがあったら、オデットちゃん喜ぶだろうなあって、発注かけてるところなんだ。できたら、すぐに持ってくる」
「いきなり見せて驚く顔が見たかったんだけど、仕方ない」と、ジェラールが物で攻めた。
オデットの心が動いたのは、手に取るようにわかる。俄然欲しくなったに決まっている。
でもすぐに「いいよ」をするのはどうなのか。もうちょっとこらしめたほうがいいのかな。
考えるオデットの唇に皺が寄っている。
こそっと伺いを立てられてマルセルは笑いそうになった。
「オデットちゃん、俺は役に立つと思うよ。な、頼むよ」
ジェラールは祈りの形に手を組む。
「そこまで言うなら、連れて行ってあげたら、オデット」
あくまでも上から目線を貫いて言えば、オデットはホッとした顔をした。
「連れて行ってあげます」
そして小声で加える。
「カチカチケースは、何色ですか」
「オデットちゃんは赤がいいかと思って赤にしたけど、よかった?」
大きく頷く。
「赤だといいなと思いました!」
カチカチとはオデットお気に入りの火ばさみのこと。落ちている靴下なども、挟んで持って行ってくれるからすぐに行方知れずになってしまう。ケースができれば、イタズラも減るかもしれない。
剣のように持ち歩く? 火ばさみを。マルセルにはまったく理解の出来ないことなのに、ジェラール・ルグランはごく普通に対応しているから、すごい。
案外相性が良いのではないかと思う。
「いざ! お姉ちゃまのお迎え作戦決行です」
すぐに終わりそうな作戦に、勇ましい号令と共に踏み出すオデットに付き従うのは、男ふたり。
「ジェラール君、付き合わせてごめんなさいね。戻ったらお夕食にしましょうね、食べていって」
オデットと遊んでくれてありがとうと礼を言うブラッスール夫人に見送られて、オデット一行はアデルを迎えに家を出た。




