お姉ちゃまを救え!・1
マルセルが帰宅した時、一階のブラッスール家の居間は、ちょっとした騒ぎの途中だった。
オデットがいて
「お姉ちゃまが、いない!」
ブラッスール夫妻がいて
「アデルなら、昼から買い物がてら出かけたよ」
なんだか賑やか。
「お姉ちゃまに、カペル君のお土産を見せたいのにいないなんて、おかしいです!」
「そうやって『お姉ちゃま、お姉ちゃま』とくっついてばかりだから、アデルもひとりで出掛けたいんじゃないか」
指摘する父にオデットが頬を膨らませる。
「お姉ちゃまは私のことが大大大好きなので、絶対にそんなことはありまっせん。私が学校へ行っていたから、しょうがなくひとりでお出かけしたのです!」
「まあまあ、ちょっと落ち着こうか、オデットちゃん」
少し離れた椅子から声をかけたのは、ジェラール・ルグラン。マルセルも彼がいるとは今まで気がつかなかったほど、違和感なく存在していた。
約束せずに立ち寄りお茶を飲んでいくこともあるから、今日はそのパターンだろうと推察する。
「あら、マルセル。お帰りなさい。今日は早いのね」
ようやくここで、ブラッスール夫人が「あなた、いつからそこに?」と居間の入り口にいたマルセルに、にこりとした。
いつもより早く帰宅したのには理由がある。
「この後、人を訪ねようと思いまして。アデルがどうかしましたか」
「アデルが出かけているから、オデットがおかんむりなの。夕食までには戻ると思うんだけど」
なるほど。目を三角にしたオデットは「お姉ちゃまをお迎えに行く」と、ジェラールに訴えている。
「でも、行き先はわかんないだろ?」
「私にはわかります!」
「今ひとつ、信じられねぇな」
自信満々のオデットを疑うジェラールは、オデットのアデルに対する嗅覚の鋭さを知らないらしい。
「先輩にはお願いしません。ひとりで行きます!」
とうとうオデットが宣言した。それは何と言うか……危険だ。自分の用事はそれこそ約束していないので、今日でなくてもいい。マルセルはオデットを優先することにした。
「オデット、一緒に行こうか」
ぱっとこちらを見るや否や、それまで引っ張っていたジェラールの上着の裾を捨てるように手放したオデットが、満面の笑みになる。
「お兄ちゃまっ」
叫んで勢いよく頭からマルセルに突っ込む。
「うわ、すげえ態度の差」
苦笑するジェラールを丸ごと無視する変わり身の早さは、オデットならではだ。
「お姉ちゃまは、あっちです。すぐ迎えに行ってあげます」
オデットは女戦士のようにきりりと眉をつり上げた。




