「君と別れたい」・1
学習発表会明けお疲れ休みのアデルを家に残しひとり通学したオデットに、カペルは「帰りに少し時間をくれないかな」と声をかけた。
「はいです!」
せっかく小声にしたのに、オデットの元気な声がクラス中に響いてしまったが、本人は気にしていない。
授業後に向かったのは、人もまばらなカフェテリア。営業は朝と昼のみで、この時間は休憩室として開放されている。
窓際のテーブルに着いて早々、カペルはテーブルに額に入れた小さな絵を置いた。
「これは学習発表会のお土産。たいしたものじゃないけれど」
今回出かけた町の景色が描かれた絵。アデルさんの見た景色をオデットさんも見たいかと思って、購入したものだ。
「ありがとう! カペル君」
輝く笑顔でテーブルに額を立てると、いそいそとポケットからなにかを取り出す。オデットが額の前に置いたのは小さなお人形だった。
「見てください! これで私も行ったのと同じです」
それはちょっと違うような……。しかし言っても無駄な気はするし、今日は他にすべき話がある。
カペルは意を決してオデットを見つめた。
「オデットさん、ごめん。君とこのままお付き合いすることはできない」
オデットがきょとんとした。
「勝手な言い分だとわかってる、でも、これからは友人として付き合っていけたらと思う」
アデルに触れて気がついてしまった。オデットよりアデルのことを思う時間が長いことに。
そんな気持ちを抱えてオデットと付き合うのは失礼だ。それがカペルの出した答えだった。
オデットが自信なさげに尋ねる。
「『友人』は『彼女』ですか?」
「友人は彼氏彼女とは呼ばない。友人はお友達だよ」
頷くオデットは案外飲み込みが早い。
「じゃあ、嫌です」
きっぱりと言い切ったオデット。誉めた前言は撤回する、カペルは仰け反りそうになった。
「私は彼女がいいので友人にはなりません」
ハキハキと告げる。
つまり「別れた後は友人でいよう」なんて虫のいい話は受け入れないということ。オデットなら許してくれるのではないかと考えていたカペルは、唇を噛んだ。
オデットのことはもちろん嫌いじゃない。色々と手を貸してあげたいところが沢山ある目の離せない女の子だ。これからは見ても手伝うこともできないなんて。寂しい気持ちが湧いてくる。
「カペル君の彼女でいます」
明るい声。カペルは俯いていた顔を上げた。なんだか思っていたのと違うような。
「お姉ちゃまが『彼女』なので、私も絶対に絶対に彼女でいます!」
どうやら、ここまでオデットの「彼女」にたいする認識は誤ったままで、誰も訂正しなかったらしい。
「でも、彼女は『一番好きな人』という意味なんだ」
それも少し違うかもしれないけれど。
「カペル君の一番は私じゃない?」
真っ直ぐな瞳で見つめられて、カペルは返答に困った。
「お姉ちゃま?」