前世 私がシャンタルだった時・2
午後になっても夫が戻らない。様子を見に畑へと行ったシャンタルは目を疑った。
収穫時期が順に来るよう考えて作物を植えていたはずが、見るも無惨に掘り返され穴だらけになっていた。
途中で折れたものや、踏みつけられた茎もある。誰かの嫌がらせと思ってしまうけれど、やったのはまず間違いなく夫。ふたつめ、三つめの玉を探してあたり構わず掘り返したのだ。
あんな玉より今日明日の食べものが大事なのに、あの人は何を考えているのか。
立っていられないほどの脱力感に襲われ、シャンタルはその場にがっくりと膝をついた。
見える範囲に夫の姿はない。また玉を見つけて顔役の所へ持ちこんでいるのだろうか。
いや、あの玉はそうそうないと思い直す。――どうして私は根拠もなく確信を持っているの?
背後で靴音がした。夫が戻ったらしいと振り返れば、初めて見る男が軽く頭を下げ、農道からこちらへと来るところだった。
感じの良い笑みに、かえって警戒心が頭をもたげる。
こんなにきちんとした若者が、私に愛想をふりまく理由がない。
「大丈夫ですか。ご気分でも?」
親切にも手を差し伸べる。シャンタルは目に入らない風を装い自力で立ち上がると、スカートについた土を申し訳程度に払った。
「いいえ。なんでもありません」
「また、ひどく掘り返したものだ」
無視された手を気にするでもなく若者が独り言のように言う。
「畑なんてこんなもんです」
素っ気なく返すと、きょとんとされた。
「作物を植えるところですか、これから」
「ええ、まあそんなとこです」
さすがに言い張るにも無理がある。気まずくなり、家に戻ることにする。
「この辺りで珍しい輝石が見つかったと聞いて、村までゆくところなのですが、見つかったのはここですか」
思わず若者の顔を二度見した。どこかで会ったことがあるだろうか、いや、あれば記憶に残るような田舎では見かけないタイプの男だ。
でもなぜか神経を逆なでされる感じがする。
「知りません」
私から話すことはなにもない。この人が買い手なら、夫が村で相手をすればいい。
背中に視線を感じながら、シャンタルは駆け出したい気持ちを我慢して、急ぎ家に戻った。