表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/170

前世 私がシャンタルだった時・2

 午後になっても夫が戻らない。様子を見に畑へと行ったシャンタルは目を疑った。


 収穫時期が順に来るよう考えて作物を植えていたはずが、見るも無惨に掘り返され穴だらけになっていた。


 途中で折れたものや、踏みつけられた茎もある。誰かの嫌がらせと思ってしまうけれど、やったのはまず間違いなく夫。ふたつめ、三つめの玉を探してあたり構わず掘り返したのだ。



 あんな玉より今日明日の食べものが大事なのに、あの人は何を考えているのか。

立っていられないほどの脱力感に襲われ、シャンタルはその場にがっくりと膝をついた。


 見える範囲に夫の姿はない。また玉を見つけて顔役の所へ持ちこんでいるのだろうか。


 いや、あの玉はそうそうないと思い直す。――どうして私は根拠もなく確信を持っているの?



 背後で靴音がした。夫が戻ったらしいと振り返れば、初めて見る男が軽く頭を下げ、農道からこちらへと来るところだった。


 感じの良い笑みに、かえって警戒心が頭をもたげる。

こんなにきちんとした若者が、私に愛想をふりまく理由がない。


「大丈夫ですか。ご気分でも?」 


 親切にも手を差し伸べる。シャンタルは目に入らない風を装い自力で立ち上がると、スカートについた土を申し訳程度に払った。


「いいえ。なんでもありません」

「また、ひどく掘り返したものだ」


 無視された手を気にするでもなく若者が独り言のように言う。


「畑なんてこんなもんです」


素っ気なく返すと、きょとんとされた。


「作物を植えるところですか、これから」

「ええ、まあそんなとこです」


 さすがに言い張るにも無理がある。気まずくなり、家に戻ることにする。



「この辺りで珍しい輝石が見つかったと聞いて、村までゆくところなのですが、見つかったのはここですか」


 思わず若者の顔を二度見した。どこかで会ったことがあるだろうか、いや、あれば記憶に残るような田舎では見かけないタイプの男だ。


でもなぜか神経を逆なでされる感じがする。 


「知りません」


 私から話すことはなにもない。この人が買い手なら、夫が村で相手をすればいい。


 背中に視線を感じながら、シャンタルは駆け出したい気持ちを我慢して、急ぎ家に戻った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 前世の更新をありがとうございます♡ う〜む 夫よ…… 笑 この夫しか選択肢が無いとは どれだけ小さな村なのか 辛いなぁ これはもしかしたら 4度の人生は同じ世界だとして必ずしも同じ国(土…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ