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男気があって面倒見のいい先輩

「ジェラール先輩が来てくれたので一安心ですね」

「それでも少し減らしておきたいの」

「アデルさん……なにか気になることが?」

「用心するに越したことはないと思って」



 「ジェラール先輩は夜中に目を覚ますと朝まで寝ずの番をしている」と聞けば、アデルとカペルの部屋を入れ替えようと提案されたことも含めて、何もないと考える方がおかしい。


 何に対して警戒しているのかを言わないのは年少者に対する気遣いだと受け止め、こちらからは聞かないとカペルは言った。


 カペルの背中に手を当てて会話をしているので、お互いの顔は見えないがアデルの意見も同じだ。



 ジェラールの寝ているのとは別の部屋で、アデルはカペルに魔力を流していた。

どちらからともなく、向かい合わせを避ける感じになったのは、事故のようにキスをしてしまうのを避けるため。


 魔法球の魅力に抗えないのは受ける側だけのはずなのに、流されてしまってどうする私。言い訳をさせてもらえるのなら、倦怠感はあるんですと主張したい。



 着いた翌日からジェラールは道を歩くのにも手を繋ごうとした。アデルが「恥ずかしい」と嫌がると「俺は気にならない」と取り合ってくれず、困ってしまった。


 攻防を経てアデルの手荷物をジェラールが持つこととなったけれど、女の子用の小さな鞄を体格の良いジェラールが下げるので、気付いた人には二度見される。

 

手を繋ぐより人目を引いてしまったかもしれない。



「カペル君、ジェラール先輩といつの間にか仲良くなってる」


 視線を合わせなくても物のやり取りが成り立つふたりを見てそう思った。


「仕事に同行させてもらって、お世話になっているので……」


語尾を濁されると気になる。


「他にもなにか?」

「ちょっと思い出しただけです」

「なにを?」

「先輩に『アデルちゃんとなんかあった?』と聞かれました」


アデルの流す魔力に乱れが生じたらしい。カペルの肩が僅かに揺れた。 


「なんて答えたの?」

「本当のことを」


本当のことって。

「『何もありませんよ』って」


アデルはつい詰めてしまった息を吐いた。


「ドキッとしましたか?」

そう聞くカペルは、からかったつもりだろうか。



「男気があって面倒見がよくて。ジェラール先輩のそばならアデルさんも安心できる」


 手放しの誉めように「先輩が女好きなのは知ってると思うけど、好みのタイプは知らないでしょう?『すぐにヤらせてくれる人』なのよ」と暴露はし辛い。



 それに偽装彼氏になってからは、義理堅いと言っていいほど真面目に彼氏役を務めてくれている。


 必要な行為とはいえ、カペル君に触れることを後ろめたく感じてしまうほどに。



アデルの力加減の変化を感じ取ったカペルが呟く。


「大丈夫です、アデルさんを困らせたりしません」


 なにを言うの、私は助けてもらってばかりよ。

それがうまく声にならない。アデルはそっとカペルの背中を押した。


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