魔力を求める男達・4
ジェラールの背筋の悪寒は止まらない。
「カペル君、まさかひとりでやるつもりじゃねえだろうな」
無言で軽く首を傾げると、さらりと前髪が額にかかる。もう四・五年もしたら女のコが群がるだろうが、その中の誰よりもカペル君が美人に決まっている。
ジェラールは乾いてしまった唇を舐めた。
「記録が残ってるからには、見届けた奴がいるってことだ。前は誰か一緒に戦ったんだろ」
「泣き喚く声と物音がしなくなってから、確かめにゆく『立会人』がいます。オオトカゲの気が向いて襲われては役目が果たせませんので、方が付くまでは気配を感じさせないよう十分な距離を取ります」
事も無げにいうが。
「それは立ち会いとは言わねえだろ」
ジェラールの率直な物言いに、カペルは「ふ」と笑うだけ。
「そんで、俺んとこの仕事を手伝ってくれてるわけか」
あの真剣さと熱心さの理由は、考えもつかないほど厳しく惨いものだった。
ジェラールの心情は顔に出たらしい。
「僕の代で何とかしなければ、今後も犠牲を払い続ける。簡単にやられるつもりは、ありません」
前向きな姿勢が眩しい。
「それで魔法球を代々探してるってか」
「はい」
「入手したことは?」
「ありません。手に入れたからといって、都合よく使えるとも限りませんし、僕はそう拘ってはないんです」
アデルちゃんの力。オオトカゲには鱗がある、剣より斧がいいかもしれないが、距離を取りたいなら斧槍。アデルちゃんなら斧槍も出せるかもしれない、いや待て、身長より長いものが出せるのか?
カペル君に力は見せていないとアデルちゃんは言い張ったが、何かはしたはずで、察しの良いカペル君なら並外れた魔力量に気がついていると思う。
「アデルちゃんに手を貸してもらっちゃどうだ。オデットちゃんでも」
オデットちゃんの魔術は攻撃力がある。アデルちゃんの魔力を形にした武器をカペル君が振るい、オデットちゃんと連携すれば、かなりの大物でもいけそうな気がする。
意気込むジェラールに対して、カペルは否定的だった。
「我が家の事情に巻き込みたくないんです。だからジェラール先輩にお話しするのも迷いました」
「それは家同士過去の確執があるからってことか」
「家のことではなく、女の子に惨い光景を見せたくない。先輩ならお分かりでしょう」
確かに。ブラッスール家の姉妹は、女の子とは思えないほど虫を嫌わない。オデットちゃんにいたっては虫好きと言えるほどだ。
オオトカゲ相手となると、生々しい現場になる。さすがに慣れた俺でも、好んで行く現場じゃない。しかし――
「大丈夫です、先輩。オオトカゲが現れたという報告はありませんから。ずっと先のことかもしれません」
カペルは歳下とは思えないほど落ち着いた微笑で、ジェラールを安心させるように言った。




