魔力を求める男達・3
カペル君が「どうしてそれを」と思っているのが、わかる。以前に自分が言ったのを忘れているらしい。
「扱ったことがあるかって、俺に聞いただろ。気になってたんだよ」
押し黙る相手にジェラールは待った。縁のない土地では気分も変わるものだ。今夜を外せば聞く機会がない、そんな気がした。
「これからする話は、領地の評判に関わることです。ジェラール先輩の胸に納めてくださるなら、お話しします」
「ウチの家業は信頼第一だぜ。ルグランの名にかけて約束する」
どの家だって巨大害虫が発生したなんて隠したいもの。秘密の保持は当たり前だ。
カペルは一度目を伏せると重い口を開いた。
「『オオトカゲ』が出るのは特定の村です。いつも出るわけではなく、何十年かに一度。百年のうちには必ず現れて、村に壊滅的な被害を与えます」
「農作物それと家畜?」
「人も、です」
「そりゃまた難儀な話だな」
唇を引き結びカペルが頷く。
「そのオオトカゲが出たら、これまでどうしてた?」
「知らせが入るとすぐに退治に向かいます」
「で、倒す」
当然のように返したジェラールに、カペルは複雑な微笑を浮かべた。
「退治したという記録は、ありません。記録によれば、オオトカゲはカペル家の者を食らうと満足して去る、そして以後何十年と姿を見せない」
「なんだ、それ。オオトカゲの寿命はそこまで長くないだろ」
「はい。代替わりのタイミングで来るのか。同じ個体ではないと思いますが、区別がつかないので」
そりゃそうだ、こっちが命懸けならあちらさんも必死、落ち着いて見る暇はない。俺だって害虫をいちいち区別したりしない。ジェラールは納得した。
それにしても、話自体信じ難い。真面目に超がつくカペル君から聞くのでなければ、一笑して終わらせるところだ。
「村を移転させちゃだめなのか」
「したこともあったようです。しかしオオトカゲは近隣の村まで来ました。それに、オオトカゲの現れる辺りは肥沃な土地で、村人がすぐに戻ってしまうのです」
次に襲われるのは何十年も先とわかっていれば、肥沃な耕作地を放置しない。
「――カペル君、兄弟は」
ジェラールがぞっとしたと、カペルは察したらしい。
「うちは、常にふたり以上の男子がいます。跡継ぎの他にひとりはいなければならない、有事に備えて」
カペル君は何人兄弟だ? 聞くのがためらわれる。
「当主である父と跡継ぎの兄は退治に向かいませんから、僕しかいません」
「オオトカゲの退治に、ひとりで出向くなんてことは、ないよな」
カペルの笑みは変わらないのに、ジェラールは少しも笑えない。
「オオトカゲはカペル家の者を嗅ぎ分ける能力があるらしく、真っ直ぐに狙ってくるとか。それなら他に人がいるのは無意味です。怪我人が増えるだけだ」




