魔力を求める男達・2
話が難しくなってきた。
「ジャマンは『話に乗らないか』と、金持ちに手当たり次第声を掛けてるってことか?」
勢いで「先生」を略してしまったが、そのままにする。
「それも考えられます。あるいはうちが代々宝珠を探していることを、どこかで耳になさったのかもしれません」
カペルは完全に手を止め、ジェラールに体を向けた。
「宝珠?」
「魔法球の別名です。地方によって呼び方が異なりますが、基本的には同じものです」
「何の役に立つ?」
「宝珠から魔力を引き出し自分の力にすることができます。無限ではないので、込められた魔力を使い切るまでですが」
一時的に魔力が増強されると聞いてジェラールが思い出すのは、アデルの胸から出た剣だ。
そんなことが出来るとは信じられない今も、ありありと感触が残り「俺に不可能はない」と自信が漲った高揚感は、何度でも味わいたい。癖になりそうなものだった。
それと似たような状態を魔法球が作り出せると言うのなら、欲しがるヤツは多いだろうが。
「使い途がないだろうよ」
戦時ならともかく、魔力をぶっ放してしたいことなどあるか。巨大害虫の駆除に体を張るウチはともかく、欲しがる理由がわからない。ジェラールは疑問をそのままカペルにぶつけた。
「稀少価値でしょうか。魔法球は複雑な色合いをしていて、どんな宝石よりも美しいそうです。お宝ハンターなら『男のロマン』と言うかもしれません。転売する毎に値段が吊り上がります」
「ロマンねえ」
ジェラールは床に脚を降ろし、ベッドに腰掛ける姿勢に変えた。
「で、カペル君ちが代々魔法球を欲しがる理由はなんだ? 元々結構な魔力持ちでそれ以上いらねえだろ。なら投機目的か。賭け事に強い家なんだってな」
貴族同士の繋がりについて、平民は疎い。が「昔賭けに負けてブラッスール家の領地がカペル家に取られた。両家の仲はとても悪い」というのは、一年生が入学して早々駆け抜けた噂話だ。
ドブロイ先生が「気をつけて」と言ったのも、その絡みかとも考えたが、しっくりとこない。
「『魔法球の力は誰にでも引き出せるものではない』というのが通説です。そう言っておかないと窃盗が横行するから、そうしてあるだけかもしれませんが」
だとしたら、アデルちゃんの持つ魔法球に似た特異な力は自在に操れるからこそ、より珍しい。良からぬ輩に知られたら、身辺が物騒になってしまう。
――話を逸らされたか。ジェラールがじっと見つめても、カペルは微笑したままだ。
なんだったか、いつもひっかかるあれ。
「それとオオトカゲは、なんか関係あるのか」
思い出した。自分で考えるのも面倒だ、聞いたほうが早い。