偽装彼氏は追いかける・3
女の子にちょっかいをかけようというのとは、感じが違う。最初から目をつけていた獲物とここで遭った、そんなところか。
アデルちゃん、妙なことに巻き込まれてんな。さてと、どうすっか。
俺がこれほどあからさまに注視しているのに気が付かないのだから、大した悪党じゃない。
そう読んで、ジェラールはすぐに今後の方針を決めた。
「あの子、かわいいよな」
真後ろから男に声をかけた。ジェラールのほうが頭ひとつ高いので、後ろからでもアデルの姿はよく見える。
男が飛び上がるほど驚いて、一歩距離を取る。
「あ、悪い。驚かせた?」
にやりと笑って、
「あのコ、俺の彼女。美人だろ? 寄ってくる男が絶えないからホント大変。まあ今夜からは俺がべったり張りついて、他のヤツは寄せつけないけどね」
見るのも気に入らない、と圧をかける。男はすぐに卑屈に見える作り笑いを浮かべた。
「この辺じゃ見ない子だと思っただけだ」
なにもしてないとアピールし、へらへらしながらジェラールから離れていく。
「彼女は俺と帰るから、ここには長居しねえよ。じゃあな」
一緒だと強調して、ジェラールはアデルへと大きく一歩踏み出した。
「欲しい物が見つかったら、俺に買わせて。アデルちゃん」
熱心に品定めしていたアデルの顔が、見知らぬ人から突然声を掛けられた時のように強張る。
ジェラールは妙な男が去ったのを確かめてから、名前を呼んだ。あの様子なら名前も知っていそうだったが。
「ジェラール先輩?」
「そんなに驚いてくれるなら、来たかいがあったな」
固まっていたのは驚きのあまりらしい、半信半疑のアデルが可愛い。手を伸ばして髪に触れると流れのまま頬にキスをした。
物陰から様子を窺っているかもしれない男対策だと言い訳しつつ、自分がしたいだけ。
「ど、どうして?」
「来るって言ったろ」
「でも」
学校はいいのかと、ようやく表情の戻ったアデルが尋ねる。
「いいの、いいの。学校より大事なもんがある」
再びのキスをさせまいと頬をガードするアデルを、腕に囲い込む。
「ジェラール先輩、人が見てます!」
「見せてるんだって」
来て良かった。ジェラールはアデルの頭に顎を乗せた。




