偽装彼氏は追いかける・2
「先回りしようか」と冗談に口にしたが、本当に行くことになると思ってはいなかった。
仕事で欠席することも多い。出席日数足りてたか俺、卒業できるかな。
思いながらジェラールは馬を駆けさせていた。
馬車が雇えるところは馬車、都合よく見つからなければ馬。十分に貰ったから旅費には困らない。日当はさすがに断った。
金離れのよいドブロイ先生に「学校の先生って高給なんだっけ?」とひやかし半分に聞けば、「安全を買うのに惜しんでどうする」とさらり。
そういうの「大人の余裕」ってヤツなんだろうな。ジェラールの感想だ。
血縁と言ってもアデルちゃんとは「はとこ」、結婚もできる。ドブロイ先生は女の子から男として人気があるわけじゃないが、おかしな噂もない。
なによりアデルちゃんを大切にしている、俺に用心棒を頼むほど。
「やっぱ、難敵はカペル君より先生か」
女の子は大人の魅力に弱い。ジェラールは顔をしかめた。
高等専門学校一行が宿泊している宿は満室だとして断られた。
「ジェラール・ルグランと言いますが、お困りごとはありませんか。仕事で来ていまして、寝泊まりできれば倉庫でも廊下でも構いません」
仕事用の笑みと共に通りのよいルグランの名を出せば、「貴賓の使用人部屋でよければ」とすぐに応じてくれた。先代からこれまでの実績と信頼のおかげだ。
部屋に荷物を置き、使用人用の階段を降りる途中、辺りをはばかる様子でひとつ下の階から来た男が気になった。
宿の従業員らしからぬ汚れた袖口と靴。ジェラールまで届く染み付いた煙草と酒の匂い。
――この階、ウチの学校の貸し切りじゃなかったか。違和感しかない。
ジェラールは暇つぶしを兼ねて、男の跡をつけることにした。
自分がつけられているなどと思う人は少ない。それにジェラールは仕事柄、存在感を薄くすることに長けている。魔力量が少ないのは、この場合長所となる。
さしあたりすることもないからと気軽に始めた尾行は、すぐに真剣なものへと変わることになった。
目的もなさそうにふらふらとしていた男の雰囲気が変化した。理由を探して視線の先を追えば。
女の子好きする雑貨屋の窓から中を覗いている女の子の制服は見慣れたもの。
シルバーグレーの髪は触り心地が良いとジェラールは知っている、アデルだった。




