偽装彼氏は追いかける・1
弁論大会の会場に行かなかったアデルは、カペルの参加する公開討論会を聴講した。
客席で聴くだけだから気楽なもの。そして予想通り面白くない。ついよそ事を考えてしまった。
歳上相手に堂々と考えを述べ渡り合うカペル君は大したもので、これでまた子爵家の名は上がったものと思われる。
それに比べて参加するだけのブラッスールの名は誰の目にも留まらないことだろう。不出来な娘ですみません、と両親に心のうちで謝罪などしているうちに討論会は終了した。
オデットが喜びそうなものをお土産にしようと雑貨屋の店先をひやかしながらひとりで街歩きをして、のんびりとした気分で宿に戻った。
何がどうとは言えないくらいの違和感がある。アデルは部屋の中央に立ち、広くもない部屋を隅々まで眺め渡した。
荷物は全て揃っている。では物の位置が移動しているかといえば、はっきりとそうだと言い切れない。
出かけている間に宿の人が入ったのだろう、アデルはそう結論づけた。
「あんた、しっかりしろよ」
「ルグラン君、さすがに教師に向かって『あんた』はよくないと思うよ」
怒りと呆れを隠さず「あんた」呼ばわりするジェラールに対し、マルセル・ドブロイは苦言を呈したものの、態度はとても控えめだ。
「なんで、アイツが行ってるの気が付かなかったんだよ」
「そう言うけどルグラン君、弁論大会の審査員の名前までチェックしないだろう? 普通」
まあ、言いたいことはわかる。ジェラールは口をつぐんだ。
朝、登校すると同時にドブロイ先生に「ちょっといいかな」と声をかけられ、何かと思えば「アデルと同じ街にジャマンがいて遭遇する可能性がある」と告げられた。
「魔力を研究しているジャマンを、膨大な魔力を保持するアデルに近づけたくない」という話は聞いている。ジェラールとしても、女好きなジャマンとアデルの接近は避けたいところだ。
「で、俺にそれを教えてどうしろって?」
ジェラールは顎をあげ、語気を強めた。
「話が早くて助かる。私が行くわけにはいかないからね」
「俺の彼女のはとこ」は、「日当を含めて費用は先払いする。今すぐ行ってくれないか」と、生徒に向けて学校をサボるよう平然と頼んだ。




