人を狂わせる魅力を持つ十七歳・3
「そ……それはヨカッタ」
マルセルは「絶妙な湯加減の湯に全身を浸している感じ」「今なら使えない魔術はないってくらいの全能感がある」と表現していた。
ジェラール先輩も、私が止めないのを良いことに名残惜しげに胸を撫でていたから、魔力が体に満ち満ちていくのはかなりの快感なのだろう。
「離したくない、ずっとこうしていたい」
ここまで直接的な言葉は、初耳だ。
「アデルさんはどんな感じ?」
「――温かいわ」
「それだけ?」
カペルが問いなじる。不満そうにされても困ってしまう。不必要なほどに密着している下半身から伝わる熱に、落ち着かないことこの上ない。
アデルの胸の尖端がゾワゾワしているのは、絶対に内緒だ。
「今日も甘い匂いがします。舐めたら甘いのかな」
「そんなわけはないでしょう。どちらかといえば塩味じゃない?」
カペル君は魔法球に魅せられておかしくなっている、とアデルは判断した。「舐めてもいい?」と聞かれたらどうしよう、聞かずに舐められたら? 突き飛ばすしかない。
考えているうちに、カペルの手がアデルのうなじへと移った。
思わずギクリとして距離をとろうとすると、無遠慮に思えるほど真っ直ぐな視線がアデルを捉えた。
「キスしたい。アデルさんは同じ気持じゃない?」
誘う目つき、焦がれる声音、うなじに触れる手の質感とが重なり合って、目を閉じたくなってしまう。
優しい系美男子は「アデル」にとっても危険であるらしい。
偽装といえども彼氏がいるのに、魔力の与える昂りに煽られて、私が絡め取られてしまう。
キスは、
「だめ」
「嫌?」
「『いや』じゃなくて『だめ』」
「それは、キスしたいってことだ」
うっすらと笑むカペルが決めつける。
魔力を渡した後のマルセルとは、そのまま重なるように昼寝をするのがお決まり。オデットがいつもくっついて離れないのも同じ理由。親密度が増す。
この場を乗りきる方法を考えていると、いきなり焦点が合わなくなり視界がぶれた。アデルの体も揺れたらしい。すぐさまカペルが抱き直し支える。
「どうかした?」
「大丈夫、ごめんなさい」
ドキドキしているうちに魔力を譲渡しすぎた、と正直に伝える。
「バカみたいよね」
加減を間違えるなんてと肩をすくめるアデルに、カペルも苦笑している。
ふうと息を吐きながら姿勢を正して、ひとつ提案をした。
「魔力を放出するなら、桶に水を張ってお湯にするのがお勧めよ。かなりの魔力を消費するの、桶はふたつもあれば十分だと思う」
ジャマン先生に遭遇する前に、使ってしまった方がいい。
「でね、できればそのお湯をいただきたいの。髪を洗いたくて。ひとつでいいので」
「ニ桶とも持ってきます。少し待っていてください」
アデルはとても丁寧に頼んだのに、カペルは吹き出すように笑ったのだった。




