04
あれ……。
意識の覚醒と同時に瞼をゆっくりと開ける。
……あれ?
見覚えのない場所だ。
………………。
木造の屋根。
基礎は剥き出し。
物が積みさねられて置かれている。
一見乱雑に見えるが、積み上げられた途中までは規則性が見られる。物が多くなるにつれて整理がつかなくなったのか。
電気が点いているわけではないが、一応見える程度には明るい。この明るさはどこからきているのか。
なるほど、あっちの窓辺から陽の光が僅かに漏れ入ってきているのだろう。
…………あれ?
三回も同じセリフを繰り返すなよ。
と、みんな思っているかもしれない。
だが、すまん。
………………あ〜〜〜れ?
敢えて。
敢えて四回繰り返そう。
だって。
え、なによ、ここ。
…………倉庫?
まさかの、倉庫スタート?
いやいやいやいや。
「倉庫スタートってなんよ?」
うう、喉がガサつく。
埃っぽいせいだ。
ふざけんなよ。ハウスダストアレルギーなんだよ。
「……あー、鼻水が」
初回からバッドステータス来ちゃったよ。
アレルギー性鼻炎舐めんなよ。
条件が揃えば一年中、蛇口全開放の源泉掛け流しナイアガラ状態なんだぞこのヤロウ。
「………………ぁー、ティッシュない……」
俺は立ち上がると、鼻を啜りながら出口を探し、なぜここにいるのかも分からない倉庫から出ていった。
「……」
んんーー。
俺は倉庫を振り返り、そして、もう一度扉を開けた先を見た。
なんなら、外に足を踏み入れて倉庫の回りをタタタタタタタ〜!と足早に確認していく。
「荒屋以上ログハウス以下の造りの倉庫と、辺り一面の雑木林&草むら……」
人が踏み鳴らして出来た道は無く、長い年月、誰もここに立ち入っていないということが扉の前の生き生きした雑草を見てすぐに判る。
「下手に動くと迷うかなあ」
孤立。
これは、孤立と言って間違いない。
迷子というには過言だ。
なぜかって?
迷子っていうのは正規ルートから外れること。または目的地を見失うこと。更には集団から意図せず離れてしまい合流が困難な状況を指すからだ。(※俺の脳内辞書引用)
俺は決して迷子じゃない。
強いていうなら“迷わされた子”であり、完全なる被害者だ。
「ああ、そうか」
これを遭難というのか!
「……………。バイトを無理して休んで、いざ異世界転移したらはぐれるなんてね。なにこれ、新手のマインクラフトですかね」
素手で木は切れないよ?
倉庫の中身を自由に使え、とか?
ごめん。埃っぽい所ムリ。死んじゃう。主に脱水症状で。
「マスクとティッシュが欲しい」
自称父親の大助から異世界の学校に通わないかと提案を受け、ざっくりとした話しか聞かせてもらえないままいざ異世界へ来たのだが、これは流石にあんまりだ。
準備していたカバンすらどこにもなく。
故にティッシュもなく。
ここが異世界のどこで、俺はこれから何をしてどこに向かえばいいのかも全く検討がつかない。
「これはあれだよ。母さんが転移陣をやたら動かしたからだな。大抵、原因ってのはそんなもんだ」
あの日、俺の机の引き出しから大助が飛び出て来たのも母さんの仕業だったらしい。
元々は、母さんの部屋の姿見に転移陣が設置されていたのを、大助が戻ってくる日程を知っていた母さんは俺たち子供に説明するのが面倒と言う理由で、無理矢理転移陣を引っ剥がして、机の引き出しに設置したのだそうだ。
母曰くーーー、
『引き出しとは元来、そういう物でしょ?ジャパニーズ文化、知らないの?』
ーーーだそうだ。
異世界から嫁いできた人に言われたくない。あんた、ドラえもんよりサザエさん派だろうが。
しかし、それを聞いて一つスッキリした。
大助が来た時に座標がズレたのなんだの言っていた理由がこれだったのだ。俺はてっきり、出会い頭に出鱈目を言っていたと思い込んでいたので、大助に対する誤解が一つ解けた。
だからこそ、少しは信用して大助の言う通りに一緒に転移陣を使用した。
まあ、結果はこの有様なのだけれど。
「帰ったら母さんに文句言っておこう。劇場版ドラえもんですらのび太くんはぼっちスタートしたことなかった、って」
厳密に言えばあるにはあるが、冒頭から一人はまずなかったはずだ。あれ、もっとあったっけ?あれ?やばい、忘れて来てる。家に帰ったら昔の劇場版から見返さなければ。
「まあ、ウチのパパえもんが助けに来てくれたらの話だけど。現状帰れる気はしないなぁ。のび太君なら即涙目になってる場面だ」
ん?
いやまてよ……。
これってあの流れか?
オープニングに入る為の、あれか?
あの劇場版恒例の?
…………なるほど。
理解した。
生粋のジャパニーズなめんな。
のび太君に成りきって言うことだって朝飯前だ。
じゃ、いくぞーーー!
「ドラ〜〜〜えーーー」
「やかましいっ!!!!」
「……も〜〜………………ん………………っ」
すぅっ!
「ドラ〜〜え、も〜〜〜〜〜〜ん!!!!」
「やっかましいわっ!!」
「ぶふぇらっ!!?????」
孤立無援と判断し、せっかくオープニングコールを言い直したと言うのに。
俺は、無視した声の主に後ろからド突かれて雑木林の中に勢いよく吹っ飛ばされてしまうのだった。