第79話 暗躍する黒い影
ここから少しシリアス展開になります!
お付き合いお願いします!
色々あった社交界パーティーの翌日。
俺は雨の音で目を覚ました。
ここに来てから初めて降った雨が寝室の大きな窓を叩いている。
アトランティスにも日本のように四季があり、今は秋の始まりの時期だ。
今日は秋の長雨といったところだろうか?
いつも一緒に寝ているウェンディも何やら作戦会議があると言って、ユキナやノーミーを連れて精霊馬に籠もっている。
「さてそろそろ起きるかな」
モソモソとベットから降り、身支度を整える。昨日は着慣れないタキシードを身に着けていたので、少し体が強張っているな。
トントン
朝食を食べるために、部屋から出ようとしたところでドアをノックする音がした。
メイドさんかセバスさんかな?
「はい。ってアリシアじゃないか」
「おはようワタル・・・少しいいか?」
「あ、ああ。入ってくれ」
少し沈んだ顔のアリシアが俺の寝室に入り、窓際に立って、外の雨を眺め始めた。
「ワタル・・・ノーミー様に会わせてくれてありがとう」
「協力するって言ったしな。・・・その様子だと契約できなかったんだな」
「ああ・・・かなりきついことも言われたよ」
「聞いていいか?」
アリシアは窓の方を向いたまま答える。
「ノーミー様は私の信念をお聞きになられた。その信念に共感できれば契約してもいいそうだ」
「信念?」
「ああ・・・木の精霊様は信念と豊穣を司っているからな。だから私は妹のために剣聖となり、いずれ剣聖の座を譲るために生きていると答えた」
「それで?」
「・・・ノーミー様はそんなことのために生きているのかと言われたよ。そんなことのために私と契約するのかと」
「そうか・・・」
「妹を傷つけてしまってから、その為だけに全てをかけてきた。・・・私は何か間違っていたのだろうか?」
「・・・・・・」
多分ノーミーはそんな事を聞きたかったわけじゃないだろう。
妖精の契約が何か分からないが、多分契約者と多くの時間をともに過ごすことだと思う。
自分の贖罪の為に契約してくれなんて言われたら、ノーミーは了承しないだろう。
しかし、答えはアリシア自身で見つけなくてはならない。
「俺はアリシアの過去の事は知らないし、無理に聞くつもりはない。でもアリシアが妹の為に一生懸命になっているのは分かるよ」
「・・・ワタル」
アリシアはこちらを振り返り、俺を見つめた。宿屋のときのような自分ではどうしたら良いか分からない顔をしている。
「でもさ、アリシア自身はどう思っているんだ?妹の事は抜きにして、どんな風に生きて行こうとしているんだ?」
「私は・・・」
「多分、ノーミーはそのへんの事を聞きたかったんじゃないのかな?格好いい言い方をするとアリシアの生き様だよ」
初めてあった時にノーミーは俺に面白そうだから付いていくと言ったような気がする。
アリシアの生き様が面白そうだと判断したら契約するかも知れない。
「急に聞かれてもすぐには答えられないな」
「そりゃ誰だってそうだよ・・・そこでいい方法を教えてやろう」
「何か方法があるのか?」
「ああ・・・俺のいた地球では会社に入る為の面接で、必ず聞かれることがある」
「「あなたの長所と短所を教えてください」とな」
「そうなのか・・・」
「でも、すぐに答えられる人は少ない。だから事前に自分を知る必要がある。つまり自己分析をするのさ」
「どうやってやるんだ?」
俺はテーブルに置いてある紙とペンを取り出して説明を続けた。
「ここにアリシアの産まれてからこれまでの生い立ちをなるべく詳しく書くんだ。そしてそこで思った事を横に書く」
俺はトンと指で紙を叩く。
「ふむ」
「嬉しかったこと、悲しかったこと、好きな食べ物、苦手な食べ物、初恋の人、尊敬する人、得意なもの、嫌なこと。エピソードも加えて具体的に。アリシアを知っている人に聞くのも有効だ」
「これをやるとどうなるんだ?」
「自分が何に興味があって、どんなときに感動して、何に悲しくなるのか客観的に見えてくる」
「なるほど」
俺が提案したのは就職活動の定番である自己分析方法だ。
「それができると、なんとなく自分の向いている仕事が分かるようになる。自分が生きやすい人生の方向性も同じだ」
「そうだな」
「後はアリシア次第だ。ノーミーに私はこんな人間なので、こんな目標を立てて生きて行きますと言えるかも知れない」
「・・・自分にできるだろうか」
「そんな顔をするな・・・アリシアならきっと出来るさ・・・ノーミーもきっと認めてくれる」
ポンポン
「ワタル?」
「あ・・・」
思わずアリシアの頭をポンポンしてしまった。ハルカが落ち込んだときの癖が無意識に発動してしまったのだ。
「まぁ!」
「「あ・・・」」
俺たち二人は同時に開けっ放しの扉に立っていたメイドさんの声に振り向いた。
ヤバイ・・・またアドレーヌ様に罰を受けるかも知れない
・・・・・・・・・・・・
ここはシップブリッジの場末の飲み屋。
歓楽街から少し外れた、地元の人でもあまり近づかないスラムの手前の店だ。
看板も出ていないこの店に集まる人間も、いわゆるスネに傷がある者たちばかり。
大きな街の影の部分の象徴のような飲み屋の扉が静かに開いた。
タバコと酒の匂いが充満した店の客がギロリと入ってきた人物に視線を向けた。
「・・・マスター・・・個室は空いているか?」
「注文は?」
「マティーニを頼む」
クイッと顎を奥に向けたマスターは、何事もなかったように再びグラスを拭き始めた。
この店に個室などない。表向きは。
男は使われていないトイレのドアを開けて中に入り、壁を軽く押した。
やがて地下へと続く階段を降りた先にある、ロウソクの明かりが灯る薄暗い部屋にたどり着く。
「よぉ久しぶりだな」
眼の前で椅子に座っている男が声をかける。ロウソクの灯りでは男の顔半分ほどしか分からないが、間違いなく自分を呼び出した人物だ。
「依頼の方はどうなっている。情報は渡したはずだ」
「まぁそう焦るなよ。それより一杯どうだ?」
「いらん」
「つれないねぇ〜」
椅子に腰掛けて足を組んでいる黒い服の男はおどけたように手を広げた。
「実は少し予定を変更してね。お前に少し手伝ってもらいたいことができた」
「なんだと!?報酬は払っているはずだ」
「落ち着け。手伝いと言ってもお前に利がある話だよ」
ゴトッ
黒い服の男はテーブルにいくつかの魔道具を置いた。
小さな檻のような物や黒い首輪だ。
「これでとある妖精と契約してもらいたい」
「何を言っているんだ?こんな物で妖精と仲良くなれと言うのか?」
「別に仲良くなる必要はない。自分に従わせればいいだけだ・・・上手く行けばお前は晴れて剣聖様だ」
黒い服の男は魔道具の使い方と作戦を伝えた。
「しかし・・・」
「おいおいどうした?御前試合まで時間がないんだろ?妖精と契約できれば剣聖になれるんだぞ?」
「何を企んでいる?」
「人聞きが悪いな。こう見えてもお前には感謝しているんだ。恩返ししようと思ってな」
「・・・・・・俺が了承すれば依頼はこなしてくれるんだな」
「すぐにでもやるさ。我々人族解放軍は約束を重んじるからな」
「分かった・・・」
その後、男はフードを目深に被り、街の雑踏に消えていった。
「あいつが裏切ったらどうするんです?」
「それはないさ・・・あいつはすでに地獄に足を突っ込んでいる・・・後戻りはできない」
「そうですね」
「さて!仕事に取り掛かるか」
場末の飲み屋で黒い服の男は小さく呟いた。
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