第63話 剣術修行
やっと出せた!
ブン!ブン!ブン!
俺はひたすらトゲバットを素振りしている。実際にはこんなかっこいい音は出ていないがイメージとしては、トゲバットが空を切って音が鳴っている。
「はぁはぁはぁ・・・きつい・・・体力には自信があったんだけどな~・・・」
「おじさんもう疲れちゃったの?」
「全然弱々じゃん」
「変な木刀持ってる〜」
さて、何で俺がこんな事をしているかと言うと、剣術修行を始めたからに他ならない。
木の精霊教会で熱烈に俺を勧誘してきた女性は、現在の剣術師範と司祭を兼ねている一人の初老の男性を連れてきた。
その男性も俺に付いている幼霊を見て驚いていたが、特に勧誘することもなかった。
どうやらここは剣術を教えてくれる代わりに木の精霊教会に興味を持ってもらう所らしい。
この教会は孤児院も併設されており、マシューさんが子供のお世話をしているそうだ。
子どもたちがマシューさんを見習ったら将来たくましく育ちそうだと思ったが、けして口にしない。
ケインさんは以前ミルフィーユ王国の騎士団にいたそうだが、引退後、ここの修道士の女性と結婚した。
その奥様はずいぶん昔に亡くなったようで、今はケインさんが司祭として教会を運営している。
しかし、教会の運営は建物を見る限り芳しくないようだ。ミルフィーユ王国は木の精霊も信仰の対象だが、やはり風の精霊信仰の方が主流。
それに加えて真剣に剣を志すものは街の由緒ある道場へ行く。
ここはあくまでも教会で、剣を教えるのはオマケみたいなものだ。
だから、必然的に孤児院の子供や成り立て冒険者などしか集まらない。そのような者たちに寄付を期待するほうが無理がある。
とまぁそんな教会兼剣術道場に俺は来たわけだ。
いくらボロ道場でも初めから剣術を教えてくれるわけもなくケインさんは俺に体力づくりから始めるように言った。
小一時間、庭をグルグルとランニングして、今は素振りを繰り返している。
もう剣術というより筋肉をつけるためにスポーツジムに通っている感覚だ。
俺の素人丸出しの素振りに子どもたちが馬鹿にしてるけど、体を動かすのは嫌いじゃない。
師範はやはり歳なのか子どもたちに稽古を付けると言うより見守っている感じで、時々様子を観に来てはすぐに引っ込んでしまう。
こんな剣術道場では流行りはしないだろうと改めて思った。
「マシューさんはすごいですね。一人で孤児院を切り盛りしてるなんて・・・」
「そんな事ないですよ。私もここの孤児院の出身で恩返しのつもりでやってます・・・それよりこんなに頂いてよろしいのですか?」
「これは今日のお礼です。気にしないでください」
一通り稽古?が終わったあと、マシューさんに誘われて昼食を取っている。
誘われたと言っても無償はまずいので、収納ボックスに入っている食材を提供することにした。
じーーー・・・
俺がマシューさんと話していると、一番年長の男の子が俺をじっと見ているのに気づいた。名前は確かラック君だったかな?
「な、何かな?ラック君」
「お前はマシュー姉ちゃんが好きなのか?」
「ちょっとラック!何いってんの!?」
「俺は今日剣術を習いに来ただけだよ。マシューさんは魅力的な女性で尊敬できるけど好きとは違うかな?」
「そ、そんなワタルさん・・・魅力的なんて・・・」
「ふん!マシュー姉ちゃんに手を出したら承知しないからな!」
ダッダッダッ!
「おい!ラック君!」
「ねぇワタルさん・・・ラックはマシューお姉ちゃんが好きだから、とられるかもって思ったのよ」
「いやいやとらないよ」
「そうよミッシュ・・・ワタルさんとはお互いを知る所から始めているのよ」
キャーー!
マシューさんの発言に盛り上がる女子たち。
「ちょっとマシューさん!誤解を招く発言は困ります」
「あらあら?そうかしら?うふふ」
「危険よ!やっぱりこのデカパイは危険よ!」
「ウェンディは黙っててくれ!」
・・・・・・・・・
「ふぅ~まいった・・・」
俺は木の精霊教会で昼食をとったあと、屋敷に帰ることにした。
初日から子どもたちと仲良くなった事はいいが、変な誤解を与えてしまったようだ。
マシューさんは変な勧誘さえしなければ、魅力的な女性だと思う。
あの胸は別として、一人で孤児院を切り盛りしているは尊敬に値する。
昨今の日本では保育士の労働環境が問題になっていたのを思い出す。
何十人といる園児を限られた人数で面倒を見るのは大変だ。子供をゲガをさせないために神経を使い、トラブルがあれば親に気を使いながら解決しなければならないとニュースの特番で見た。
せめてもう少し待遇を改善してあげないと報われないよなぁと思ったものだ。
マシューさんはいくら孤児院の出身で恩があるとはいえ、ほぼ無償でやっているのだから頭が下がる。
「ワタル・・・付けられてるわ・・・」
「ん?・・・ああそうだな」
俺が保育士の将来の事を考えているとウェンディが警戒している声をあげた。
実は教会から出た時からずっと誰かにつけられているいるのは気づいていた。
しかし、不思議と悪い感情は伝わってこない・・・何故なら俺をつけている人物は木の幼霊がワンサカ付いているからだ。
「あの・・・俺になんか用ですか?」
「っ!・・・何故分かった?」
「いやそんなに木の幼霊が付いていれば分かりますよ。一面緑色だし・・・」
「そ、そうか・・・一体君は何者なんだ?」
「それ俺のセリフです」
そう言って柱の陰から金髪の美人剣士が姿を現した。
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