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第57話 おにぎり

さらにあの人が登場します!


これから少し地球のお話が入ります!

「ワタルさんをお連れしました」


 エルザさんが応接室の奥の扉を開けて、中の人物に声をかけた。


「し、失礼します」

「・・・・・・」


 恐る恐る中に入った部屋は先程の応接室より一回り小さいながらも立派な部屋だった。


 いかにも高そうなテーブルの上には何やら布が被さっている物がたくさん乗っている。


 その横には動物の皮できたフカフカのソファー。

 そして・・・大きな窓を背にして一人の女性が背を向けて立っていた。


「ちょっと待っててね。心の準備をするから・・・スゥーハァー・・・よし!」


「・・・・・・あの・・・」


「ひさ・・・初めまして。ワタル・・・ワタルさん。一日商業ギルドマスターのロード・デントロンです」


「おお!エルフだ・・・」


 振り向いた女性を見て思わず声が出てしまった。

 太陽の光を受けて白い髪が輝いている。

 ユキナは銀に近い白だが、ロードさんは雪のような白い髪。


 落ち着いた感じの白を基調とした服に、大きめのアクセサリーを付け、こちらを緊張したような顔で微笑んでいる女性。


 そして、特徴的なピンと尖った長い耳。

 もちろんエルフを実際に見たことはないが、ラノベの定番であるエルフの姿そのものだった。


 年の頃は二十歳くらいだろうか?しかし、エルフは年齢が分かりづらいというし、本当はもっと年を重ねているかも知れない。


「は、はじめましてロードさん。ワタルと申します」


「・・・・・・・・・」


「私はこれで失礼します。後はお二人でごゆっくり・・・」


「あっ!ちょ!エルザさん!」


 なんだかニマニマしながら去っていったエルザさん。

 いきなり一人にされてしまった。

 ・・・気まずい


「あの・・・ロードさん?どうかしたんですか?」


 ブツブツ


「・・・ずいぶん立派になって・・・少し痩せたかしら・・・ちゃんと食べるの?・・・でも前より生き生きしているから良かった・・・彼女の一人でもいれば・・・でも周りは妖精ばかりだし・・・アドレーヌは身分が違いすぎるからNGね・・・苦労するのが目に見えているから」


 おいおい・・・なんか俺を見ながらブツブツ言い出したぞ。

 俺のファンって言ってたけどストーカー的なファンなのか?


「ロードさん!俺に話があるんですよね?」

「ハッ!ごめんなさい。つい本人が目の前に現れると混乱してしまって・・・とりあえず座って」

「は、はい」


 俺はフカフカのソファーに座る。


「なぜ隣なんですか?」


 当たり前のように俺の隣に座るロードさん。


「お腹減ってるでしょ?エルザに好物を聞いて作ったの。ああワタルさんが転生者って聞いてるから安心して。地球の食事を再現してみたのよ!食べてみて」


 俺の質問を無視したぞ・・・


 そしてロードさんはテーブルにある山のように積んである何かの布をめくった。


「こ、これは・・・おにぎり・・・まじか・・・」


「好きでしょおにぎり!それにだし巻き卵に肉じゃが・・・そして・・・ジャン!唐揚げ!」


「おお・・・おお・・・なんで俺の好物ばっかり」


 そこには日本で見慣れた食べ物ばかり並んでいた。しかも、俺の誕生日などに出される好物ばかり。


 その懐かしさに思わずここが異世界だと忘れてしまう。母さんとハルカと俺が楽しく食卓を囲む光景がフラッシュバックする。


「こっちじゃパンが主流だから、お米を取り寄せたのよ。さっ!食べなさいワタル」


 俺を「ワタル」と呼んだことなど気にしてなどいられない。


「い、いいんですか?」


 恐る恐る目の前のおにぎりを掴み、頬張った。


「モグモグ・・・ああ・・・うまい・・・塩が強めのところも俺好み・・・中身はシャケ?」

「これも使いなさい。ほらご飯粒ついているわ。他にも食べてみて!」

「は、はい。頂きます。あっすみません」


 なんとロードさんはお箸を出してきた。


 慣れた手つきで口についたご飯粒も取ってもらい、目の前の物を夢中で食べ始めた。


 口の中に入るジャパニーズ感。


 おにぎりとおかずのハーモニー。


 醤油味の唐揚げのサクサクとした歯ごたえ。


 俺の口が日本にいた時の事を思い出したようだ。   

 とにかくヨダレが止まらない。


「あらあら慌てないの・・・そんなに美味しいの?」

「うまいです・・・うまいです・・・屋敷の食事も良かったけど、これは実家の味だ。ありがとうございます。う、嬉しい・・・です」


 俺は食事をしながら泣いていた。そして泣きながら夢中で食べた。


 常に気を張っていた異世界での暮しの中で、知らず知らずのうちに俺の心は疲弊していたようだ。日本の食べ物が心に染み渡っていくのが分かった。


 ・・・・・・・・・


「・・・ご馳走様でした。めちゃめちゃ美味しかったです」


「気に入ってくれて良かった・・・そうだ!ワタルの心を少し軽くしてあげるわ」


 ロードさんは食べ終えた俺の背中に手を添えた。

 ポワっと暖かい何かが背中に広がる。


「ねぇワタルのお話を聞かせて!楽しかったこと、大変だったこと、恋バナなんかもあれば嬉しいわ」


「・・・えっと・・・はい・・・俺の話でよければ・・・恋バナはないですけど・・・」


 それから俺はこの世界に来た時の事を話し始めた。

 ロードさんは、時に驚き、時に喜び、たまに苦言を呈しながら聞いてくれる。


 初対面の人とは思えないほど、不思議と話題が弾む。


「ウェンディは、口うるさいけど頼りになる相棒って感じです。最近なんか焦っているような感じだけどなんでだろ?」

「へぇそうなの」


「ノーミーは今でも英雄ザリオンの事を忘れられない感じです。一緒にはしゃいだりしてるけど、フッとした時に悲しんだ顔をします。」

「うん辛いわよね」


「・・・ユキナに・・・ユキナに初めてあった時は、絶望と不安に押しつぶされそうな目をしていました。・・・そう・・・あれは俺の母親が亡くなった時のハルカの目と同じだった・・・だから助けないといけないと思った。今では楽しそうにしているのがとても嬉しい・・・」


「・・・・・・」


「・・・ほんとはハルカの結婚式で就職できた事を伝えて安心してお嫁に行って欲しかったんだ・・・でも高卒だとなかなか難しくて就職が間に合わなかった・・・就職活動のために色々勉強したのにできなかった・・・」


「・・・ワタル・・・」


「ハルカは結婚式で俺に自分のために生きてって言ってくれた・・・まさかそんな事を言ってくるなんて・・・俺の心配を返せって感じで・・・」


「・・・・・・うっ」


「でも・・・でも・・・俺は死んでしまった。これから・・・これからハルカは幸せになるのに・・・特大の不幸を与えてしまった・・・うぅ・・・情けないお兄ちゃんだよな・・・ごめんな・・・ごめんな・・・」


 もうボロ泣きしている俺。

 ロードさんが優しく抱きしめる。


「ワタルもういいのよ。十分頑張ったじゃない」

「うぅ・・・あぁ・・・」


 何でこんな事、初対面の人に言ったのか分からない。

 しばらく嗚咽を漏らしているうちに俺の意識は深い所に落ちていく。


「ごめんなさい!ごめんなさい!兄弟二人だけにしてしまった私のせいだわ。ワタル・・・ハルカ・・・お母さんを許して・・・」


 何でこの人は謝っているんだ・・・まどろみの中ロードさんの声が耳に残った。















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