第43話 町娘大作戦
「ふんふ〜ん♪」
俺はご機嫌なユキナの手を引き、トカリ村の道を歩いてる。
エルザさんから頂いた町娘風の服を着て、村の様子をキョロキョロしているユキナを見ると幸せな気分になる。
ずいぶん昔のことになるが、妹のハルカの手を引き学校からの帰り道を歩いていたのを思い出した。
あの頃と比べて俺はずいぶん背が伸びたので、兄と妹というより親子に見えているだろう。
ユキナの服はよく似合っていて、少し青みががった生地に白の刺繍がされた上着、黑のベスト。
それにゆったり気味の白のスカートを履いている。
目立つ白銀の髪は、頭巾とというか三角巾ですっぽり隠れている。
その三角巾には小さな白竜のワンポイントが入っているのを見つけた時は、エルザさんの優しさを感じた。
「かわいいわ!ユキナ!どこからどう見ても町娘にしか見えないわ!」
精霊馬車は目立つので、一旦収納し徒歩で向かうことに。ウェンディはユキナの周りを飛び回り、ノーミーは俺の肩に座っている。
ノーミーも飛ぶこともできるが、いつもどこかに座っている。俺の肩はお気に入りのようだ。
まぁ、全然重さを感じないので楽ではあるが・・・
「ユキナは妖精なのに人族の格好をしたいなんて変わっているね」
「白竜族のお姫様なんで人族の村に興味があるんだよ」
「ふーん・・・そうなの・・・」
ベアフが言っていたのが本当なら、ノーミーはミルフィーユ王国の英雄ザリオンと契約していた妖精だ。ウェンディより年上なのは間違いないないだろう。
どこか悲しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。
「私は頭を下げられるほど立派な妖精じゃないの・・・むしろ国を捨てた裏切り者なのよ」
昨日ベアフに向かって言った言葉だ。
裏切り者とはどういう事なのか分からないが、ドリュアス様が言っていた過去に囚われている事と関係があるような気がした。
まだノーミーとは知り合ったばかりなので、そこまで突っ込んで話を聞くのも違うような気がする。
せっかくウェンディやユキナと仲良くしてくれているのだ、無理に聞くこともないだろう。
「さて、あそこかな?」
肩に乗っているノーミーの事を考えていると、村の中心あたりに小さな宿を見つけた。
看板にはベッドとフォークとナイフのマークがあるので間違いない。
この宿屋兼食堂がベアフに素材を依頼した所だ。俺たちは、村の散歩がてら納品に訪れることにしたのだ。
「ごめんくださーい!」
「くださーい!」
宿のドアを開けながら声をかける。ユキナも俺を真似して後ろから声をあげた。
「いらっしゃいませ。すみません・・・まだ営業時間前なので少しお待ちください」
中の厨房から顔を出したのは、コック姿の16〜17歳くらいの青年だった。
俺達を食事をする客と間違えたのだろう。
「ああ、いえお客じゃないんです。ベアフから素材の納品を頼まれたものです」
「ベアフさん・・・そうでしたか。ではそこに置いて貰えると助かります」
青い目をして、コック帽の端から覗く茶色い髪の青年は食堂のテーブルを指差した。
「それじゃここに置いて置きますね」
なんだか地球にいた時の営業を思い出すな。納品をする時はいつもこんな感じだ。
あれ?納品書や請求書はあるのだろうか?何も聞いてないな。
そんなことを考えていると
「あの・・・失礼かと思いますが、聖女様のことは何かご存知ですか?」
「えっ!?いえ、何も・・・どうしてですか?」
すでにバレているのか?前回の僧侶様作戦よりもバレるのが早いぞ。
「リューク!仕込み終わったかい?・・・ってお客様が待っているじゃないか?」
「母さん。この方たちはベアフさんの代わりに納品してくれた人だよ」
階段の上から青年に声をかけたのは、いかにも肝っ玉が座った女性だ。この青年の母親なのだろう。リュークと呼ばれた青年と同じく茶色の髪に気の強そうな青い目をしている。
「あっこんにちは。私はベアフに納品を頼まれた者です」
「ありがとうね。ベアフさんにはいつも素材を持ってきてもらっているんだよ」
「頼まれていた素材はここにあります。ベアフとは現金取引ですか?」
「そうだよ。現金のときもあれば食材の時もあるね」
「そうですか・・・私は代理の者なので後で取りにこさせます。それじゃユキナいこう」
地球では納品書なんかを貰うが、ここはみんなが知り合いの小さな村だから必要ないだろう。俺は、ユキナの手を引き宿を出ていこうとした。
「待っておくれ。少し時間はあるかい?ベアフさんから代理の人が来ることは聞いているよ」
「え?そうですか。それじゃこの場で代金をもらえるのかな?」
「ああ・・・だから少しゆっくりしていきな」
・・・・・・・・・
「これは美味いですね!特にこの肉に香草がよく合う!」
「お兄ちゃん!美味しい!干し肉とは全然違う!」
「これはトカリ村の名物のうさぎの香草焼きだよ!おかわりいるかい?」
「えっ!いいんですか?」
「おかわり!」
俺とユキナはこの宿の主人、キマリさんから報酬をもらっている最中だ。
目の前には美味そうな匂いのするうさぎの香草焼きと野菜たっぷりのスープ。
焼き立てのパンが並んでいる。
普段の食堂のメニューらしいが俺たちが取ってきた素材の納品の報酬よりも明らかに釣り合っていない。赤字なのは間違いないだろう。
久々の人間の食事らしい食事に俺とユキナは大満足していた。
「あんたらは親子なのかい?」
「いえいえ、年の離れた兄弟です」
「そう兄弟・・・ムグムグ・・・」
うさぎの香草焼きのタレでベチョベチョになったユキナの口を拭きながら答える。
「フフフ・・・仲がいいんだね。しばらくこの村にいるのかい?」
「いえ。今日の夕方には出発しようかと。このままシップブリッジまで行く予定です」
「そうかい。道中・・・妖精様のご加護がありますことを願っているよ」
「ありがとう御座います」
妖精なら俺の目の前に3人もいます。
・・・・・・・・・
「それじゃ行くかみんな!」
「むぅーリリと遊びたかった」
「まぁ落ち着いたらまた会いにこうなユキナ」
「絶対だよお兄ちゃん!」
すっかり旅支度を整えベアフの家の前で出発を宣言した。
「ベアフ世話になったな。必ずまた来るよ。宿屋の事もありがとう」
「いいさ・・・それより妖精様の事をよろしく頼む」
「逆に私たちがお世話してあるんだからね」
「この人族は色々規格外だから大丈夫よベアフ」
規格外・・・まぁそうだろうな。ウェンディは相変わらずだ。
「道中旅の安全を祈っている。精霊様のご加護があらんことを」
「ベアフもな・・・それじゃまた」
「ああ」
ガタゴト・・・ガタゴト・・・
トカリ村の出口が見えてきた。
いい人ばかりいたので、もう少し滞在したかったな・・・名残惜しく村を振り返ったとき。
「あっお母さん来たよ!!」
「待っていたよ!」
「本当に来た・・・」
村の出口にある柵の所に3人の人が見えた。
キマリさんの他にリリ、その兄が手を振って叫んでいる。
「キマリさん・・・どうしたんですか?何か納品に不備がありましたか?それにその子達は・・・」
確かに頼まれていた数の香草を置いてきたはずだ。
「違う違う!この子は私の娘と息子だよ」
「えーー!!そうだっんたんですか!!」
「だから、あんたらが来た時、すぐわかったよ。それにユキナって呼んでいただろ?」
「おう・・・やらかした」
俺のせいで町娘作戦はバレてしまっていたようだ。
「キマリさんこの事は・・・」
「言わないさ。娘の恩人だからね。」
「リリ!!」
「ユキナお姉ちゃん!!」
御者台から飛び降りたユキナはリリを抱きしめる。
「私はリリのお姉ちゃんだからこれをあげる」
「これなーに?」
「私の国に伝わるおまじない。自分の宝物を渡すとずっと友達になれる」
ユキナはそっとリリに首飾りをかける。
「ありがとう!大切にするね!」
「うん!ずっと友達でずっとお姉ちゃんだよ」
ユキナは始まりの森でリリにあげる為に首飾りを作っていた。
いつか首飾りを渡して友達になりたいと聞いた俺たちも嬉しくなってしまい、ついつい協力をしてしまう。
俺の全力の魔力で木や枝を形成し、ユキナがホーリーブレスを吹きかけ、ノーミーやウェンディが魔力を込める。
気づいたら「妖精たちの首飾り」というSSR級の首飾りが出来上がってしまった。
「退魔、呪い無効、アンデット特攻、風魔法無効、木の魔法無効、妖精の祝福」
目利きに恐ろしい説明が出て俺は固まった。
さすがに人にあげるのを躊躇するレベルなのでユキナに作り直しを打診するも、キラキラとした目で見つめられればOKするしかない。
そんな神話級の首飾りをリリに渡したユキナは満足そうだ。きっとこれでいいのだ。
「それとね・・・これもあげる」
スッと三角巾を取り、リリに被せてあげるユキナ。
「あっユキナ!」
「あ、ありがとうユキナお姉ちゃん・・・」
「これは私がずっとリリのお姉ちゃんだよっていう証。あなたを守ってくれる」
「うん。また会える?」
「私はいつでもリリと一緒」
太陽が沈み始め、辺りがオレンジ色に染まる中、白銀の髪も同じ色になったユキナはリリを抱きしめていた。
「ああ聖女様。ありがとうございます」
「聖女様の降臨だ・・・」
なんとも尊い姿にキマリと兄は跪き、俺たちはほっこりしたのであった。
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