第37話 遠くの国の僧侶様
辺境の村トカリ
ミルフィーユ王国の北側に位置し、すぐそばに妖魔の森がある。人口300人ほどの小さな村で、主な産業は麦などの穀物の生産や森の浅い部分での狩猟。
多くの若者はこの村よりずっと南にある街シップブリッジやミルフィーユ王国の王都へ行ってしまうらしい、ようはお年寄りが多い過疎の村である。
そんなベアフからの前情報を思い出しながら一歩村の中に足を踏み入れた。
特に門兵のような人物はいないので、すんなり入ることができた。
「・・・なんか全然人がいないね」
「そうだな・・・これは仕事を探すのは無理かもな・・・」
「ゴチャゴチャ人がいるよりはいいわ」
俺達3人が村の感想を述べる。
さて、俺たちは人族の村に入る前にどの様な立場がいいだろうと考えてみた。
妖精は普通の人には見えないので、俺が一人で村に来たという設定だったら旅の商人で通じるかもしれない。
当然、異世界からきた無職の男ですと言えるはずもない。
しかし、白竜族のユキナが人族の村に興味があるので、人の姿で過ごしてみたいとおねだりしてきたのだ。
ワタルお兄ちゃんとウェンディお姉ちゃんは妹にはただ甘なのでその願いを叶えることに。
幸い、ユキナは人化の魔法を使うことができる。
人族の衣装で頭を覆える僧侶のような格好をしてもらい、遠くの国からきた僧侶様とそのお供ということで行こうと思う。
ウェンディは最初から見えないので無視することに。
「私がユキナに付いているから安心ね!ユキナにちょっかいをかける人族はウィンドカッターで切り刻むわ!」
「・・・おいやめてくれ」
「それは駄目だと思うよ」
ウェンディが一番不安である。初めての人族の集落で傷害事件など起こしたくない。
俺たちは善良な求職者なのだ。
ガタゴト・・・ガタゴト・・・
精霊馬車は寂れた村を進む。
ポツリポツリと木造の家が点在し、その煙突から煙が出ているのを見ると、人はいるようなので安心する。
人は全然見当たらないが・・・
「うぇーん!痛いよ〜!」
「おい!泣くなよ!今お母さん呼んでくるから」
人を見つけて話しかけてみようとキョロキョロとあたりを見回していると子どもの泣き声が聞こえてきた。
どうしたのだろうと馬車を近づける。
「おい怪我してるのか?大丈夫か?」
「・・・・・・痛そう・・・」
「ッ!・・・おじさん誰?」
「ブッ!おじさんだってワタル」
おじさん・・・そりゃこの子からしたらおじさんか・・・まだ、27歳なんだけどな。
「お兄さんは、この子と旅をしている者だ。それより妹がゲガをしているのか?」
こちらを見上げている男の子はユキナの事をチラッと見る。茶色の短い髪に、青色の瞳。10歳位だろうか。
「・・・うん。遊んでいたら屋根から落ちて・・・これからお母さん呼んでくる」
屋根から落ちるような遊びってなんだ?この世界の子どもはずいぶんアクティブのようだ。
「そうか。それじゃ君はお母さんを呼んできてくれ。それまでお兄さんたちがこの子を見てるよ」
「う、うん。それじゃ行ってくる」
タッタッタッと走り出した男の子を見送ると、泣いている妹の方を観察することに。
「プッ!ワタルはお兄さんを連発しているわよ。気にしているのね」
「ウェンディうるさいです」
改めて泣いている妹を見る。4、5歳位の女のコだろうか。兄と同じ茶色の髪を肩まで伸ばし、青色の瞳に涙をためている。
「君大丈夫?お名前言えるかな?」
「ヒック!・・・エグッ!・・・リリ」
「そうかリリ。よく名前言えたね。俺はワタル、この子はユキナっていうんだ。」
「・・・ヒック・・・うん」
「どこが痛いか言えるかい?」
「足が痛い・・・それに肩も痛い・・・」
屋根を見上げると4、5メートルの高さがある。ここから落ちたようだ。もしかしたら骨折しているかもしれない。
「リリ。これから荷台に運ぶけど良いかい?」
「荷台?」
「ああ、この馬車の荷台は怪我を治す機能があるんだ」
「ワタルお兄ちゃん待って。動かすのは良くないと思う」
ユキナが御者台を降りてトテトテ歩いてきた。丈の長い服を着ているので歩きづらそうだ。
「そうは言ってもな・・・」
「私はユキナ・・・リリを治してあげる」
「ちょっとユキナ!そんな簡単に・・・」
ユキナはウェンディが咎めるのを無視して、息を吸い込む。
フーーー
一瞬何故浄化のブレスを吐くのだろうかと思ったが、浄化のブレスと違いとても優しい感じがする。
人の姿でもブレスが吐けるようだ。
頬を膨らませたユキナのブレスがリリを包み込み優しく光出した。
「良し!終わり。痛くない?リリ」
「あれ?痛くない。お姉ちゃん何をやったの?」
「癒やしのブレス。死ななければたいてい治る」
「まじか!すごいなユキナ!」
「ふふーん!すごいでしょ!」
ブワー!
ユキナが立ち上がり胸を張ると風が吹き、帽子が飛ばされた。
白銀の髪が太陽の光を受けキラキラと光る。それは神々しいまでに美しいお姿が降臨した瞬間だった。
「ユキナお姉ちゃんキレイ・・・聖女様みたい・・・」
「ふふふーん!お姉ちゃんはすごい!」
「こ、こらユキナ隠しなさい」
「ほら帽子被ってユキナ」
ドヤ顔のユキナに急いで帽子を被せる。
「とりあえず治ってよかったなリリ!」
「聖女様ありがとう」
・・・まずい。リリに聖女様と勘違いさせてしまう。
「ち、違うんだリリ。これはあれだ。誰にでもできるお手軽な治癒魔法だ」
「リリ!私は聖女ではない!誰にでもできるお手軽な治癒魔法を使っただけ」
「そ、そうなの?」
「ああ、俺たちはどこにでもいる僧侶とそのお供だ。それよりベアフっていう木こりの家を知っていたら教えてくれ。」
必死に誤魔化す俺とユキナ。たいした事をしてないと伝えるのに必死だ。
「ベアフさんのお家?それならあそこだよ」
リリが指さした方を見ると村の外れにポツンと家が見える。
「ありがとう。まだ、体を動かしちゃだめだぞ。お母さんが来るまでじっとしているんだぞ」
「ユキナお姉ちゃんとの約束よ」
「うん。お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう」
・・・・・・・・・
ガタゴト・・・ガタゴト・・・
その後、俺たちは逃げるようにその場を後にした。リリのお母さんが来るまで見ているという約束をしたが、リリの元気そうな様子に大丈夫と判断してベアフの家に急ぐ。
「なんとか誤魔化せたな!ユキナ!」
「ふふーん。私はリリのお姉ちゃんになった。そしてうまく誤魔化した。」
「あなたたちには色々言いたいことがあるわ」
「ここでいいのかな?」
俺たちの目立たず、遠くの国からきた僧侶様作戦は、開始30分で最大の危機に瀕したがうまくいったようだ。
しかし、作戦がバレる前になるべく早めにこの村を撤退しよう。そう決意してベアフの家の扉をノックした。
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