第36話 始まりの村 トカリ
「さてっと!そろそろ上がるか。先に寝てて良いぞ」
「ワタルは上がらないの?」
「残り湯で洗濯しておく、さすがにシャツを洗っとかないと人前に出れないぞ」
結婚式のために新調した白のシャツがボロボロだ。お湯で洗うだけなのでシワになってしまうけど、今の状態よりはマシになるだろう。
「それをキレイにするの?」
「そうだよ。さすがに洗剤はないからお湯でジャブジャブするだけでどな」
「・・・ちょっと待ってて」
ユキナは俺が持っているシャツとズボンを暫く見ていると、ポンッとミニ白竜形態になった。
「どうしたユキナ?何をするんだ?」
カッ!
問いかけと同時に、俺に向かってブレスを吐いた。
グレートデビルウルフを浄化したブレスの威力を弱くしたものが直撃する。
「うわっ!まぶし!!」
「ユキナ!!」
・・・しばらくして目を開け手元を見る。するとそこには新品同様の色のシャツとズボンが現れた。まさに驚きの白さだ。
ついでにビショビショだった俺の髪も乾き、シャンプーをしたかのようになっている。
「浄化のブレスできれいにしてみた。スゴイ?お兄ちゃん」
「スゴイスゴイ!ブレスにこんな効果があるんだな。さすがだなユキナ!」
「えへへへ」
「ちょっとワタル離れなさい!」
ブレスに感動し、思わずユキナの頭をワシワシしてしまう俺にウェンディが声を上げる。
「なんだよウェンディ。褒めているだけだろ?」
「バカワタル!自分の格好見てから言いなさい!」
「ん?・・・あっ・・・」
改めて自分の格好を観察する・・・トランクス一枚だ。
パンツ一枚の27歳の男が、屋外で幼女の頭を撫でている・・・事案である。
「さぁユキナ!ワタルの頭は煩悩で満たされているみたいだわ!浄化してあげなさい」
「うんウェンディお姉ちゃん」
カッ!ブォー!カッ!ブォー!
「やめろーーー!俺は正常だーー!」
ウェンディが跨っているユキナは面白がってホーリーブレスを連発する。
白竜ライダーと化した二人に追いかけ回されて、必死に逃げ惑う俺。
静寂を破る絶叫と暗闇を切り裂く白い光が妖魔の森を照らしていた。
・・・・・・・・・
結局あれからまた風呂に入って汗を流し、寝床についた時にはヘトヘトになっていた。
目を閉じる前に、初めからユキナに浄化してもらえれば、苦労して風呂を作ることもなかったと思う。
「まぁ。ユキナの本心が聞けたから良かったかな・・・また、風呂作ろ」
そんな事を思い目を閉じた。
・・・・・・・・・
ガタゴト・・・ガタゴト・・・
ミルフィーユ王国のザリオン街道を進む精霊馬車。
見たこともない色の鳥が俺達を追い抜き、空に視線を向けると抜けるような青空が広がっている。
つい数時間前に森を抜けた俺たちは、そのまま街道を進んでトカリの村を目指している。
木こりのベアフの話によれば、森から半日ほどの距離にあるらしい。
ゴトゴト・・・ゴトゴト・・・
精霊馬は俺の契約精霊なので、意志を伝えるだけで進んでくれる。馬を操った経験がないどころか、乗ったこともないのでとてもありがたい。
「名前をつけたほうがいいのだろうか・・・」
御者台に座る俺はボーっと馬を見ながら考える。
しかし、暴走モードの時には喋っていたし、すでに何か名前があるかもしれない。
三郎・・・与作・・・冬美・・・たかし・・・
何故か演歌関連の名前が頭に浮かぶが、どうもしっくりこない。
黒王・・・世紀末の予感。松風・・・傾いてもらっては困る。赤兎馬・・・別に戦争に使うわけじゃない。
「これは二人に相談してから決め・・・」
「ねぇお兄ちゃん!!」
「うわっ!びっくりした!」
じっと精霊馬を見ていた俺は突然現れた生首に腰を抜かしそうになった。
人間の姿のユキナが首だけ出して、声をかけたのだ。
「ユ、ユキナ・・・お願いだから普通に出てきてくれ。俺の心臓に悪い・・・」
「ウェンディお姉ちゃんから教わったの!びっくりしたでしょ?」
「ウェンディのヤツ余計なこと教えやがって・・・」
だんだんウェンディに似てきたユキナは積極的に俺に絡んでくるようになった。嬉しい事だか、この登場の仕方はやめてほしい。
「私、人族の村に行きたい」
「これから行くじゃないか」
「違うの!人の姿で行きたいの」
うーむどうしたものか・・・妖精の二人は基本的に人に見えないらしい。だから、大丈夫だと思う。何かあったら精霊馬に隠れる事が出来るしな。
しかし、人の姿のユキナは問題がある。まず、その超絶美少女は注目を集めるだろう。何者かに追われているユキナが目立つのはまずい。
それじゃ変装する手段はどうだ?
王族衣装では、注目を集めるどころか村の人がひれ伏す可能性もある。
さらに俺がさらって連れ回している犯罪者になってしまうかもしれない。
結論、かなり無理がある。
「ごめんよユキナ。人の姿はどうしても目立つ」
「むぅ〜〜それじゃ地味な格好にする」
ポンッ
ユキナは人化の魔法で王族衣装よりも地味な青に白の刺繍が入ったワンピースになった。
しかし、これでもかなり目立つ。衣装を変えようが、整った目鼻立ちもそうだが、何より白銀の白い髪がロイヤル感を出している。
「王族衣装よりマシだが、やはり髪の色だよな〜うまく隠せばいいんだけど・・・」
「むぅ〜〜。お兄様にも白い髪は目立つって言われた・・・」
「そうだろ。だから今回は白竜の姿で頼むよ」
「あっ!あれなら大丈夫かも!」
ポンッ
「おお〜確かにこれならいけるか・・・でもしかし・・・」
ユキナは白い修道服のような衣装に頭を覆う帽子を被っている。
これはゲームで言う僧侶ってヤツだ。
「ふふ〜ん。これは、白竜祭の時に着るはずだった儀式服なの。これで完璧・・・」
「そうなのか。まぁいけるかな・・・でもヤバくなったら馬に隠れろよ」
「やった!ありがとうお兄ちゃん!」
確かに白銀の髪は隠れたが、今度は神聖なオーラが滲み出ている。
そんな僧侶を連れている無職の俺はどんな立場なんだろう・・・
遠くに見えてきたトカリの村を見ながら呟いた。
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