閑話 ユキナのかくれんぼ②
「・・・それでね。家の宿屋にはたくさんのお客さんが来るのよ」
「人族はたくさん来るの?」
「人族だけじゃなくて、獣人も来るよ。冒険者や商人が多いかな」
「ふーん。宿屋は凄い。行ってみたい♪」
リッシュと出会ってから一ヶ月。クサラの街から近い森の中でユキナは街の様子を目をキラキラしながら聞いていた。
二人で薬草を探し、リッシュの母親が無事回復したのをきっかけに、たまにここで話すようになった二人。
ユキナはクサラの街の様子を聞き、リッシュは森の話を聞くようになっていた。
「ユキナは森の奥に住んでいるの?」
「うん。お城・・・じゃなくてお屋敷に住んでる」
「ふ〜ん。ねぇ白竜様にあったことある?」
「・・・なんで?」
「お母さんが山の向こうに白竜様がいるって言っていたから」
「・・・あったことはない」
「そうなんだ・・・会ってみたいな」
「・・・」
(嘘をつくのは嫌だな)
兄2人から白竜族のことは口止めされていて、話すことができない。
「ねぇ。これあげる」
リッシュは小さな青い布袋をポケットから取り出し、ユキナに差し出した。
「これ何?」
「これはね。クサラの街に伝わるおまじないなの。自分の宝物を相手にあげるとずっと友達になれるんだって」
「友達・・・いいの?」
「うん!だって私たち友達でしょ」
「・・・うん!友達!」
・・・・・・・・・
「お母さんお母さん!私友達できたの!すっごいきれいな女の子なんだよ!」
「へぇ〜良かったじゃないかリッシュ!」
「髪が雪のように白くて、森の中に住んでるんだって」
「そりゃ白竜様じゃないのかい?」
「違うよ〜!白竜様は男でしょ。でも白竜様が女の子だったらあんな感じかも?」
ここはリッシュの宿屋。リッシュは母親のお手伝いをしながら、ユキナのことを話していた。
「リッシュちゃん!そりゃほんとかい?」
常連の肉屋の店主が声をかける。
「ハイ!ビールおまちどうさま!おじさんホントだよ!白竜祭で会う約束したんだから!」
「女の子の白竜様ならおじさんも会ってみたいな」
「駄目だよ!女の子同士のデートにおじさんは来ちゃいけないの」
「そりゃそうだな!邪魔したら怒られそうだ!ハハハッ!」
コソッ
「おい。聞いたか?」
「ああ」
笑い声が響く店内で、静かに飲んでいた2人の男が呟いた。
・・・・・・・・・
白竜祭当日
「頼むから大人しくしていてくれよユキナ」
「むぅ〜つまんない・・・街に行きたい」
兄との約束通り、人族の街クサラに連れてこられたユキナはつまらなそうに足をブラブラさせていた。
ここは白竜を祀る神殿。街の方では祭囃子の笛やギターを鳴らし楽しそうに踊っている男女の声が聞こえてくる。
「こんなはずじゃなかったのに・・・どうしよう」
隣にいるフブキに聞こえないように呟いたユキナ。
確かに人族の街に来ることはできたが、連れてこられたのは何故か神殿で、次々と訪れる信者や神官を前にお飾りと化していた。
白竜祭はデュトロが世界を救った事を祝して行われる行事。人々にとっては一年に一回白竜族の王族を見ることができる機会となっている。
リッシュと遊ぶ約束をしてしまったユキナの計画が狂い焦りだす。
「フブキ兄様もう眠い」
「ん?ああこんな時間か・・・ヒュウガ兄はしばらく時間がかかるし、神殿の部屋で寝てこい。終わったら起こしてやるから」
「うん」
王族代表のヒュウガは訪れる客人との対応で忙しそうだ。ある程度人も減ってきたのでユキナのお披露目も十分だろうと判断したフブキは、神官にユキナを案内させることにした。
・・・・・・・・・
「ふふーん♪脱出成功♪」
窓から抜け出したユキナは一路リッシュの宿屋へと急ぐ。
事前にある程度街の地理を把握していたので、リッシュの宿屋はすぐに分かる。
人通りの少ない町外れにある宿屋のため、誰にも見つからず宿屋の前に来たユキナは、賑やかな声がする扉の前に立った。
「喜んでくれるかなリッシュ」
手にはユキナの宝物の髪飾りがある。これを渡せば、本当の友達同士になることができる。そう思いながら恐る恐る扉をノックしようとした時。
「ッ!なに?ムゴ!」
「大人しくしろ。騒げば殺す」
首に何かが巻き付いたのだけ確認すると意識を失った。
・・・・・・・・・
(・・・あれからどのくらいだったのだろう?これは誘拐されたのかな・・・)
ゴトゴト揺れる檻の中で上の方にある明り取りを見上げてユキナは考えていた。
「・・・お兄様たちは絶対心配してる。これからどうなるのかな・・・ウグッ」
優しかった兄たちを想い出すと涙が出てきた。
「おい。ここで間違いないか?」
「ああ、本部との待ち合わせ場所だ」
突然檻の揺れが止まり男たちの声が聞こえてきた。
「まさか王族を連れて来るとはな。おそらく白竜族と戦争になるぞ」
「これも聖戦のための犠牲だ。まさか宿屋に現れたガキが神殿で見たヤツとは思わなかったがな。これほどの上物を渡せば本部も納得するだろうよ」
「確かに生贄には申し分ないな」
「人族解放軍に栄光あれ!」
「栄光あれ!」
「ッ!?生贄!?私は生贄になるために誘拐されたの・・・怖い助けて兄様」
恐ろしい未来を想像して震えだすユキナ。
首に下げていた布袋をぎゅっと握る。
「ぐはっ!て、敵襲だ!」
「な!?数が多い!ぎゃー!!」
「グルルル!!」
「グルルル!」
突然の悲鳴と獣のような唸り声。
「な、なに?怖い!」
ドォーン!!
「キァー!イヤー!!!!」
一瞬の静寂のあとに、檻に何が当たり檻自体がグルグル回り始めた。
前後不覚になり、壁のあちこちにぶつかりながら必死に耐える。
しばらく経つと揺れが収まった。
ゆっくり目を開くと、急に視界が開け草原が見える。
さっきの衝撃で檻の扉が開いていたのだ。
「に、逃げないと・・・ヒッ!!」
グルルル!!
一歩踏み出そうとしたユキナの目の前に、巨大な真っ黒い狼が姿を現す。鋭い牙と相手を射殺す真赤な目。よだれを垂らしながらゆっくり近寄る狼に体が固まる。
「こ、殺さないで・・・食べないで・・・」
グルルル・・・グル?
チャ〜チャラララ〜♪
チャ〜チャラララ〜♪
「だ、駄目だ・・・あのサイズはさすがにヤバイ・・・」
《いざゆかん!異世界の彼方へ!》
「止まれー!!!ウワァー!!」
「あはははー!!!」
死を覚悟したユキナにピカピカ光る馬と変な音楽、人族の叫び声が聞こえてきた。
・・・・・・・・・
「これよりユキナの捜索を開始する。頼むぞフブキ」
「ああ、任せろ兄貴!!」
突然ユキナの魔力が消えたことで異常を察知したヒューガは来客の対応を中止して捜索を開始。しかしいくら探してもユキナはどこにもいない。
神殿の寝室ももぬけの殻で、どこに行ったのかも分からない。
不思議なほどブッツリとユキナの魔力が消えてしまった。
その後クサラの街や森の中、城内にもユキナの姿がなく数日が過ぎた頃。衛兵の一人がユキナの髪飾りを持ってきた。
街の宿屋の入口に落ちていたのを預かったそうだ。
この事がきっかけとなりヒュウガは誘拐されたと判断して、捜索隊を組むことにした。
「いつまで隠れているんだいユキナ。早く出ておいで」
厳しい目でフブキたち捜索隊を見送りながら呟いた。
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