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第25話 異世界純情街道〜恋の道〜

 絶体絶命のピンチ。


 この状況を打開するための方法は一つしかない。


 俺は激しく揺れる精霊馬車の御者台で「暴走モード」の文字に触れた。


〈暴走モードが開始されました。周囲の安全を確認してしっかりお掴まりください〉


 ギャギャギャ!!!


「お、おいどうした!なぜ止まる?」

「デビルウルフに囲まれたわ」


 ウィンドウの表示が出たので、「暴走モード」は確かに発動したはずだ。

 しかし、何故か精霊馬は四肢を踏ん張り急ブレーキをかけた。当然デビルウルフに追いつかれる。


「グルルル!」


 デビルウルフは俺たちが諦めたと思ったのか、余裕を見せながら近づいてきた。ここまでか!?


「クソッ!失敗したのか・・・ウェンディ逃げ・・・」

「待って何かおかしいわ」


 俺は覚悟を決め、ウェンディに逃げるように促そうと声をかけた瞬間、異変に気付いた。


「ん?なんだ?」

「グルル!?」


 俺達の周りだけがやけに暗くなっているのだ。まるで夜が訪れたかのような状況にデビルウルフも戸惑いながらキョロキョロ辺りを見回している。


《愛の重さが積載量。俺を煽るなら死ぬ気で来いよ。俺が行かねば誰が行く》


「だ、誰だ?新手の魔獣か?」

「・・・」


 突然、暗くなったと思ったらどこからともなく変な声が聞こえてきた。理由が分からない状況にパニック寸前だ。

 ウェンディの方を見ると精霊馬を凝視している。


「う、うま、うま・・・」

「どうしたウェンディ?馬がどうした?」

 ウェンディも「うま、うま」言ってパニックを起こしているようだ。


 カッ!


「うお!なんだ?眩しい・・・」

 突然精霊馬にスポットライトが当たった。


「う、馬が・・・しゃ喋ったーーー!!!」

「はぁ?」


《愛の重さが積載量。俺を煽るなら死ぬ気で来いよ。俺が行かねば誰が行く》


 スポットライトが当たった事で俺にもハッキリ分かった。今まで鳴きはするが、大人しかった精霊馬の口が動いて喋っている。


「マジか・・・本当に喋ってる・・・」


《振った女性は数知れず、枕を濡らした涙は見ないふり、縋る未練を断ち切って今日も行きます異世界街道》


「・・・なんかこの馬ひどいこと言ってるわ。女の敵ね」

「どうした?何が起こるんだ?」


 何やら口上らしいものが終わった精霊馬。これからどうなるのだと不安になった時だった。


 パッパッパッパッパッ!

 カッ!


「うおっ!」

「何?!何?何?」


 周りが薄暗い中、俺たちが乗っている荷台が光りだした。いつの間にか荷台の縁に沿って電球が点灯し、交互に点滅しながら輝いている。

 荷台の底の部分にも照明があるようで地面を青く染めているではないか。


「め、目がーーー!!」

「なんで目が光ってるのーーー!!」

 俺が精霊馬を指さして叫ぶ。

 あの可愛かった精霊馬の目が光って前方を照らしていた。まるでヘッドライトだ!


「魔法なの?これは魔法なのワタル!」

「わからん。でもこれは・・・」

「これは・・・?」

 ゴクッ

 喉を鳴らしたウェンディに俺は言った。


「・・・デコトラだ・・・」

「なにそれ・・・?」


 そうこれはまるで地球にいた時に、親父が乗っていたデコトラだ。一般のトラックとは違い荷台や運転席の上部、さらには荷台の底の部分を電球やLEDライトで装飾している。


 昔、2、3度親父のデコトラに乗せてもらったことがあるので間違いない。


 これは、デコトラ・・・じゃないデコウマだ。


「地球にはこんな魔獣がいるの?」

「これは魔獣ではない。デコウマだ」

「???」

「まぁ後で説明するよ」


《しっかり捕まってろ若いの。そこの嬢ちゃんもな!》


「嬢ちゃんですってーーー!ワタルこの馬私のこと嬢ちゃんっていったーーー!」

「・・・急にイケメンな口調になった」

 ウェンディの叫びを無視して驚く俺。なんだかとても頼もしい。


《それでは行こう!異世界の彼方へ!》


「い、いや彼方まで行かれても・・・うぎゃーーー!!!」

「いやーーーー!!!」


 精霊馬が宣言した直後、俺達は風になった。


 ・・・・・・・・・


 車輪が空転を起こし砂埃を巻き上げる。もはや精霊馬が引っ張っているのか、荷台にエンジンが付いていて走っているのか分からない。


俺達の周りには薄い膜のような物が張っており、風で吹き飛ばされはしないが、激しい振動は伝わってくる。


 ドシンッ!!

「ギャ!!」


 俺達を囲んでいたデビルウルフが吹っ飛んでいく。あれほど苦戦したデビルウルフも精霊馬にとっては雑魚キャラのようだ。


 グングンスピードを上げる馬。今までのスピードとは比べ物にならない速さに景色を見ている余裕などない。


「スピードを落としてくれーー!」


《何を甘いことを言っている?余興はこれからだ!》

「よ、余興?」


 俺の叫びを無視して精霊馬がおかしな事を言い出す。


 チャ〜チャララ〜♪

 チャ〜チャララ〜♪


「今度は何よー?変な音楽流れてきたー!」


《予期せぬ〜出逢いに〜戸惑う心〜♪   今だに分からぬ〜人の恋〜♪ これが恋なの分からない〜♪》


「歌い出したー!!馬が歌ってる!」

「なんでー?」


 膜のお陰で風の音を遮るので馬の声がよく聞こえる。


 音楽が荷台から鳴り出し、それに合わせて演歌調の歌を精霊馬が歌っているではないか。


 歌うまいな。コブシやビブラートを効かせプロ顔負けの演歌を披露しているぞ。


《人は〜なぜなぜ恋をする〜♪ 愛を私に教えて下さい〜♪ 契約やくそくだけじゃ悲しいの〜♪》


「なんかこの歌を聴いているとムカムカするわね」

「そうか?うまいじゃないか」


《それでも行きます〜♪♪異世界純情街道〜恋の道〜♪♪♪》


 歌いきりやがった。

 一番を歌った精霊馬。何故か紙吹雪が舞っている。どっから出したんだ?


「ワ、ワタル前見て!」

「何?えっ!ウソ!」

 ウェンディの言葉に前を見ると、街道が大きく右へカーブしている。

「曲がれー!」

「曲がってー!」


《俺の前に道はない。ひたすら真っすぐ進むのみ!》


「ま、まさか暴走?」

「そりゃ暴走モードだからね・・・」

「ごめん。言ってみただけ・・・」


 精霊馬は俺たちの願いも虚しく、森の中に突っ込んでいった。











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