第21話 熊男
「い、いただきます・・・おっうまい」
「・・・そうか」
目の前には熊男は静かに言った。
恐る恐る口につけたお茶は、紅茶のようだがかすかに花の香りが鼻に抜けた。
地球にいた時はもっぱらコーヒー派だったので紅茶には詳しくないが、美味しい紅茶であることは分かる。
木こり小屋に足を踏み入れた俺は、熊男が背中を丸くしながら淹れてくれたお茶を頂いていた。
(ねぇねぇ薬でも入ってるんじゃないの?眠ったところを食べるつもりよ)
俺の隣で、ウェンディが失礼な推理を展開してるが、無視することにする。
俺を襲うつもりなら、初めから声などかけないだろう。
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はベアフ。この近くの村の出身だ」
ベア・・・まんまだな。多分一生名前を忘れないだろう。
「ベアフさん。先程は失礼しました」
「ベアフでいい。敬語も必要ない」
「そうか・・・それじゃ俺もワタルと呼んでくれ」
こういう距離の縮め方も新鮮だ。
「ところでワタル。隣にいるのは妖精様か?」
ガタッ!
「ベアフはウェンディが見えるのか!?」
思わず立ち上がってしまった。
「ああすまん。なんとなく見えるだけだ。秘密にしているなら答えなくていい」
「別に秘密にしているわけじゃないが・・・確かに俺の隣に風の妖精がいるぞ」
「やはり・・・お初にお目にかかります。私はベアフ。木の精霊ドリュアス様を信仰している信徒にございます」
なんと2メートル近い巨大なベアフが跪いたではないか。
(見なさいワタル!これがこの世界の妖精に対する態度なの!あなたはもっと私を敬うべきなの!さぁ!ウェンディ様と呼びなさい!さぁさぁ!)
一気に調子づく風の妖精。無視だ!無視!
「妖精様がなんだか怒っているようだが大丈夫か?」
「ああ時々暴れるんだ。気にしないでくれ。それより頭を上げてくれ」
「そ、そうか。ならいいが・・・」
キーキーをわめきながら、ゲシゲシ俺の頭を蹴ってくる妖精を無視して続ける。
「ウェンディがわかると言うことは、ベアフも精霊に愛されているのか?」
「子どもの頃から幼霊が視える事はあった。木の幼霊は特にな。これが精霊様に愛されているかまでは分からん」
(ベアフは木の精霊ドリュアス様に愛されてるわよ。親和性が高いもの)
ウェンディが耳元で囁いた。
「ベアフは木の精霊に愛されているみたいだぞ。ウェンディが言ってるから間違いないだろう」
「それなら良かった。妖精様教えて下さりありがとうございます」
あまり表情を変えなかったベアフが笑っている。よほど嬉しいことなのだろう。
見た目と違っていい奴なのだろうと思う。
「ところでワタルは、ウェンディ様と契約しているんだよな」
「ああ、成り行きでな。まだ、仮契約だけどな」
「仮契約・・・?それじゃウェンディ様のことはおくさま・・・」
(ちょーと待ちなさい!あくまでもワタルとは仮契約だからね!なんか勘違いしてるみたいだから教えてあげなさい!お試しなの!お試し!)
なんかウェンディが早口でわめきだした。何をそんなに慌てているんだよ。
「ご、ごめん。なんて?ウェンディがわめき出したから聞こえなかった」
「い、いや何でもない。気にしないでくれ」
「それはそうと、ワタルすごいな。妖精様と契約していることもそうだけど、すごい数の幼霊が付いている」
「それが凄いことなのか分からないが、幼霊には助けられているから感謝してるよ」
大量の水をかけられたり、火柱上げるたりするが、サバイバル生活では助けられている。
「俺が木こり小屋に招いたものそれが原因だ。精霊様に愛されていると言うことは、ワタルの心が精霊様にとって心地よいと言うことだ。つまり、善人の証だからな」
「本当は強盗かもしれないぞ」
「もし、そうならウェンディ様が許さないはずだ」
ふと、ウェンディの顔を見る。妖精と契約するって事は、ずっと側にいるって事だ。確かに悪いことはできないな。
本当に八つ裂きにされそうで怖い。
「ワタルが妖精様と契約しているなら、一人で森を抜けることはできるだろう。これからどこに向かうんだ?」
「とりあえずミルフィーユ王国に向かおうかと思う」
「ここからだと馬車で三日ほどで行けば森を抜ける。そこからさらに二週間ほどで王都に着くはずだ」
半月程かかるのか。車があれば二三日で着くのかな。基準がわからん。
それからベアフは街や村、お金、物価、売れるものや仕事の探し方を教えてくれた。
ベアフは俺よりもウェンディの役に立てることが嬉しいようだ。
お礼にナッシーウッドの梨をあげたら恐縮されてしまった。何でも王都で売るとかなりの値段になるらしい。取り扱いには注意しろとのこと。
それから最後に最近この辺りで、人を襲う魔獣が出てるらしいから移動は昼に行えと警告された。ベアフは村の要望で森の調査を依頼されてここに来たようだ。
「色々親切にしてくれてありがとう。助かったよ」
「俺も妖精様と出会えて感謝している。道中精霊様のご加護があらんことを」
俺とウェンディはベアフに見送られながら木こり小屋を後にする。
「いいヤツだったなベアフ」
見た目は厳つい熊だが、木の精霊に愛された心優しい男。こんな出会いがまたあれば旅も楽しくなるだろう。
「これで良かったんですかねドリュアス様」
遠ざかるワタル達を見送りながら呟くベアフであった。
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