第12話 ウェンディの魔法講義
「風の精霊エアロよ。我の魔力を糧にその偉大なる力を示し給え。願わくはすべてを切り裂く一陣の風。」
俺は右手をかざし眼の前の凶悪なる魔獣に目標を定める。
「さぁ灰燼に帰すがいい。その刃に恐怖せよ」
不敵な笑みを浮かべ、右手の紋章が青く輝き、俺の中の膨大な魔力が集まりだした。
「うぉぉー!ウィンドカッター!!!」
荒れ狂う魔力が一つの風の刃となり、すべての物を切断する・・・・・・予定だった。
フサァー
心地よい風が頬を撫でる。
「あれ?」
「・・・・・・あなた何やってるの?」
「い、いや。凶悪なる魔獣を倒そうと風魔法を・・・」
「もう、逃げていっちゃたわよ。うさぎ」
「そうか!恐れをなして逃げ出したか!今日のところはこれくらいで勘弁してやろう!」
どうやら、うさぎは俺の膨大な魔力に恐れをなしたらしい。
「バッカじゃないの!あれだけ大声で叫べば逃げるに決まってるでしょ!相手はただのうさぎよ。《《うさぎ》》」
「うっ!でも魔法には詠唱が必要で・・・」
「はぁ?何よ詠唱って。必要ないわよそんなの。」
「い、いや俺の世界では常識で・・・」
「それにエアロ様のこと呼び捨てにしたでしょう?謝りなさい!」
「・・・ごめんなさい」
さて、俺達がなんでこんな事をやっているかと言うと少し時は遡る。
精霊馬車を手に入れた俺達は、「暴走モード」を見ないことにして、各種機能を確かめた。
これでなんとか出来そうだと一段落着いたので、今後の事を話し合うことにしたのだ。
「やっぱりこれを使って荷物を運ぶ仕事をするのが良いだろう。」
「そうね。人族は馬車を使って物や人を運んでいるのをよく見かけるわ」
「なぁどこかに町や村はないのか?」
「ここからだと、ミルフィーユ王国が一番近いわね。少し行けば街道に出られるわよ」
とりあえず町や村に出て、仕事を探そう。荷運びの仕事くらいあるだろう。
「さて、それじゃ早速馬車に乗って行くか」
俺は意気揚々と立ち上がり、御者台に乗り込んだ。
もちろん、馬車など運転したことはないが、この馬は俺の契約精霊だ。思いを伝えるだけで動いてくれると取り扱い説明に書いてあった。
「それじゃしゅっぱーつ!」
年甲斐もなく大きな声をあげ、右手を掲げた。
なんだか旅の始まりっぽいな。
「・・・・・・」
ん?ウェンディはなぜだか馬車に乗り込もうとしない。やはりまだ怖いのかな?
「どうやってこの馬車走らせるのよ?ここは森の中よ。獣道でも行くつもりなの?」
そう言われて辺りを見回す。道らしきものは存在しない。
「・・・・・・恥ずかしい」
ついテンションが上り、出発する事ばかり考えてしまったようだ。
「馬鹿すぎる。とりあえず馬車をしまって歩きよ」
「そうだな。ウェンディの言うとおりだな」
サッと馬車から飛び降りた俺は冷静に言った。せめて降り方くらい格好をつけたい。
「それでは改めましてしゅっぱー」
「あら?ウサギね」
馬車を収納し、二度目の出発宣言をしようとした俺の言葉をウェンディが遮った。
「ちょうど良いわ。あなた魔法を使ってみなさい」
「え?ああ分かった」
突然始まった初異世界バトル。ついに俺の風魔法が炸裂する時が来たのだ。
そして冒頭の戦闘に繋がるのであった。
・・・・・・・・・
「あのね。魔法に詠唱なんて必要ないの。なぜだか人族にはブツブツ言いながら魔法を使う人がいるけど、本来はイメージして発動するだけ」
「そうなのか。詠唱すると効果が2倍とかになると思っていた」
「なるわけ無いでしょ。大体、詠唱している間に攻撃受けて死んでしまうわ」
まぁ、言われてみればその通りだ。
「でも、イメージを固めるために魔法名だけ言う魔法使いは多いわね。魔法名はなんでもいいわ」
「それじゃ魔法名はオリジナルでもいいのか!」
「まぁそうね。分かりやすい魔法名にしてる人が大半だけど、お願いだから変な名前にしないでよ」
イメージをしっかり持って、魔法名を叫べば発動するようだ。
ん?でも、おかしいことがある。
「なんでいきなり俺に魔法を使わせたんだ?」
「私が教える前に、変な詠唱始めたからでしょ!」
「そ、そうなんですね。気をつけます」
確かに興奮してたな。反省します。
さらにウェンディは続ける。
「ワタルがいくら魔力が多くても、今日会ったばかりの私とでは繋がりが薄いでしょ。つまり、導線が細いのよ。だから、台風とか竜巻とか強力なイメージの使えないの」
まぁ、俺とウェンディは仮契約だし、繋がりが薄いのは仕方ないな。
「なら、俺とウェンディがもっと仲良くなれば、仮がとれて強い魔法が使えるんだな」
「そ、そんなのは知らないわよ。私がワタルのことを嫌いになるかもしれないし」
「まぁそう言うなよ。仲良くやっていこうぜ」
「フンッ!」
よし、ウェンディに好かれるようになるのが目標だな。俺はこの妖精との付き合い方を決めたのであった。
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