ルーリアリスからレーチェへ
アーベンの生まれ変わりを少しだけ書き足しました。4月27日14:30
死してなお執着するアーベンから逃れて白い光の中へと飛び込むと、そこでは憎しみや悲しみ、苦しみも少しずつ衝撃が薄れていく世界だった。
ルーリアリス。やっとこちらの世界に来れたのですね。
どれほど声を掛けても答えないあなたにどれほど気を揉んだことか。
この世界で傷ついた魂を癒やしましょう。
白い世界にどれほどの時間揺蕩っていたのだろう?
何か強い力に引っ張られて・・・・・・・・・・・。
意識を取り戻すと、暗いけれど気持ちいい世界に居た。
トクントクンと力強い拍動が聞こえ、私が少しずつ形成されていくのが解る。
この暗くて気持ちいい世界が狭くて苦しいと感じた頃、拍動が速くなり、狭いところへと引っ張られていく。
すごく狭くて苦しい。
ここから早く出たい。
苦しい・・・!!
もみくちゃにされた狭くて苦しいところから広いところへと出ると体が呼吸するように急かすけれど息ができなかった。
鼻も口も呼吸するようには出来ていないみたいで、すごく苦しい。
暗闇の中に居たような温かなものに体を浸けられて少し安心する。
鼻と口を拭かれて、詰まっていたものを吸い出され、鼻で息をすることが出来るようになった。
お尻に強い痛みを感じて私は泣き声を大きく上げた。
「ほんぎゃぁーー!!」
「おめでとうございます。可愛い女の子ですよ」
いい匂いがする人に抱かれて、安心を感じる。
トクントクンと聞こえる音が、闇の中で聞いていた気持ちいい音だと気がつく。
口に何かを含まされると条件反射で強く吸い込むとお腹が一杯になって、眠くなった。
この世界の私の名前はレーチェと名付けられ、誰もが何度も私にレーチェと呼びかける。
白の世界にいた頃はルーリアリスの記憶が日が経つ毎に薄れていって、黒の世界ではすっかり忘れてしまっていた。
けれどこの広い世界に誕生して、産声を上げてからルーリアリスの記憶の箱の蓋を開けたみたいな感じで思い出してしまった。
衝撃を受けて絶望しそうになった時、また口元に乳房が当たり条件反射のようにそれを口に含むと優しくて温かくて幸せなものが口中に広がる。
それをコクコクと飲み込み、お腹いっぱいになって私は自然と眠りにつく。
次に目覚めた時にはルーリアリスの記憶はどこか他人事のようで、辛い、苦しいといった感情は失われていた。
空腹になり目が覚めて、母乳を与えられて満腹になって眠りにつく。
それを繰り返している間に、ルーリアリスは本当の意味では誰からも愛されていなかったのだと思い至った。
それは今の世界での両親に心から愛されていると毎日感じられるからだった。
両親はそれほど裕福ではないようだけれど、愛情だけはたっぷりと注いでくれた。
育てられながら、子供を育てるのがこれほど大変だとは思いもよらなかった。
もしかしたらルーリアリスの両親も本当は愛してくれていたのかもしれない。
そんな風に考えて・・・、そうだった・・・。
私を育てたのは乳母と使用人だったと思い出す。
赤ん坊の私はお腹が数時間で空いて、泣いて、おむつが気持ち悪くなっては泣いた。
そして淋しくなって、ただかまって欲しくても泣いた。
それら全てに両親は嫌な顔ひとつせずに私を抱いて、ミルクを与え、おしめを替えてくれた。
這い始めると私の安全に気を使い、あらゆる危険から守ってくれた。
私がつかまり立ちするようになった頃に弟が生まれ、弟が歩けるようになった頃、妹が生まれた。
けれど両親は弟妹とも別け隔てのない愛を惜しみなく平等に与えてくれた。
これが親から与えられるべき愛だと知った。
弟妹もとても可愛くて、喧嘩しながらも仲がすごく良かった。
ルーリアリスのときは兄と弟がいたけれど、兄弟としての関係は希薄だった。
兄は嫡男としての厳しい教育があり、他者をかまう余裕などなかった。
弟は自由で両親に可愛がられていて、私は羨ましくて嫌いだった。
弟は多分私には関心がなかったのだと思う。
家族に愛され、愛して私は大きくなっていった。
あぁ・・・ルーリアリスの時は、私も誰も愛してはいなかったのかもしれない。
この世界の家族に感じる愛情というようなものをルーリアリスの頃には感じたことがなかった。
「お父様、お母様。カンツ、メリー大〜好き!!」
「私達も大好きよ!レーチェ!!」
家族を抱きしめ、抱きしめかえされる。
家族は相好を崩して私よりもっと大きな大好きを返してくれる。
それは私が十歳になっても、十五歳になっても変わらなかった。
この世界でも前の世界同様、十五歳は成人となり結婚が許される年令になる。
私の奥深くに落ち着いていたルーリアリスの記憶が再び浮かび上がってくる。
人ごとのように感じるけれど、アーベンのことを思い出すと、結婚が恐ろしくなる。
両親は好きな人が現れるまで好きにすればいいと言ってくれ家に普通に居させてくれる。
カンツが先に結婚してお嫁さんが家の中に入ってきたけれど、お嫁さんも私を邪険にしたりしなかった。
カンツのお嫁さんは私より二つ年下だけど、親友のように仲良くなれた。
喧嘩したり、仲直りしたり。
時折カンツの惚気を聞かされるのは勘弁してほしいと思ったけれど。
カンツの結婚を見ていると私も好きになれる人が出来たら結婚するのもいいかもしれないと思えるようになってきた。
そしてメリーが恋をした。
メリーが相手のことを話してくれる。
誰かを好きになることは人をこんなにも可愛くするのだと知った。
私があと少しで二十歳という頃、メリーと想い人との結婚式が行われた。
白いワンピースに私とお母さんが編んだレースのベールを被ったメリーが幸せそうに笑っている。
メリーが居なくなってしまうことに寂しさを感じたけれど、メリーの幸せそうな顔を見ていると、私の心も温かくなった。
メリーの結婚式に同じように参列している私より一つ二つ年上の男性と、目があった。
すごく優しい目をした人にその時、私の心は奪われた。
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アーベンはルーリアリスを思って揺蕩う。
生まれ変わるその時をただひたすら思う。
生まれ変わってももう一度ルーリアリスと出会えることを望んで。
ルーリアリスを思えば思うほど魂のクリーニングができず、なかなか生まれ変われない。
アーベンは今日もルーリアリスを思う。
悠久の時をルーリアリスに執着し続ける。
生まれ変わるタイミングを何度も逃す。
アーベンがルーリアリスのことを忘れるまでに何千年もかかった。
やっと忘れた頃、神は思う。二度と過去にルーリアリスと出会わせてはならないと。
神はアーベンの魂を他の神へと託す。
何光年も遥か遠い場所にアーベンは女の子として産まれた。
ルーリアリスとルーリアイスが混同していました。
ルーリアリスに変更しましたが、漏れていたらすいません。