ジュリエットは怨恨の心を知る6
女性警察官が持ってきたトレーにはボトルや目薬、ポーチ、財布などが入っていた。相川が口を開く。
「これは被害者のカバンの中にあったものです。財布の中に金銭はあったものの、身分証などはありませんでした。」
「御覧の通り、カバンには被害者が誰なのかがわかるものはなかったのです。しかし、ボクたちは彼について一つ知り得ていることがあります。」
「…左手薬指の指輪の跡?」
有太郎の言葉に明星はうなずいた。
「そう。彼は既婚者、もしくはそうであった人物です。しかし跡が残っているので、最近まで指輪をつけていたことも分かりますね。」
「それがわかったとして何になるのよ?その奥さんが犯人だっていうの?」
高原が不機嫌に問いかける。どうやらすぐに帰してくれないことが不満のようだった。明星はニヒルに笑いながら言葉を返す。
「まあ情報の整理ですよ。…次に彼が通常車両に乗っていた理由を考えましょうか。普通男性は通常車両には乗りません。では何故彼は通常車両に乗っていたのでしょうか?」
「そこの彼と同じ理由なのではないですか?」
「ありえなくはないですが、有木さんほどの変た…、不思議な理由は考えにくいですね。ですが女性と一緒に乗る目的があったというのは合っていると思います。」
「女と乗る目的?」
「誰か女性と移動していたのか、共に帰る途中だったのか。その目的はわかりませんが、女性と電車に乗っていたと考えると彼が通常車両にいた理由も説明つきます。」
明星の言葉に考え込む一同。それでも判断するのに材料が乏しいのか、反論も賛同も無いようだった。ここで女子高生、佐藤が声を上げる。
「あの、じゃあなんで一緒に乗っていたっていう女性は名乗り上げないんですか?殺された人のことを知っているんじゃ…。」
「そんなの決まってるじゃない!その女が犯人だからよ!」
高原がいきなり大きな声を出す。佐藤は急なことに驚いたが、高原はそれに構わず続ける。
「一緒に乗ってた女がその男を殺したのよ!でそれがばれたくないから黙っているんじゃないの!?」
「なるほど。それであればその女性が出てこない理由にもなりますね。」
相川は納得しているようだった。そこで黒色の美人、西村が口を開く。
「蒸し返すようで悪いのですが、もしかして指輪を外していたのは一緒に乗っていた人が…、二人目の恋人だったからじゃないですか?」
「二人目の恋人?」
「はい。もし結婚している人がいてまた別の人と関係を結んでいたのなら、第一夫人の影を見せないように結婚指輪を外していくのは普通ですよね?」
「ああそれなら指輪を外して女性に会いますね!」
「確かにお互いに干渉しないために関係性を見せないようにするのは常識ですが…。少し整理しましょうか。」
明星は情報や憶測が入り混じり始めたからか、一呼吸おいて一連の流れを整理し始めた。
「ではまず被害者男性は自身にとっての二人目の女性と通常の電車に乗った。そこで人が増え始め、満員電車になり周りの様子が誰もよくわからない中で、その女性は男性を刺殺した。その女性はどこかに凶器を隠し、そのまま黙っている。こういうことでしょうか。」
明星の言葉を聞いて相川が思いついたように言う。
「それならば男性が電車に乗った駅の監視カメラを確認すれば、一緒に乗っていた女性がわかるかもしれないですね。」
「へえ!それならすぐにやりなさいよ!そしたら一発でわかるじゃない!」
「申し訳ないのですが、カメラや切符を確認しながら追跡するので相応の時間がかかるものと思われます。この場で犯人を特定するのは難しいので、今回は一時解散というのはどうでしょうか?」
長時間拘束されてさすがに疲れてきたのかその言葉に容疑者の5人が安堵の表情を浮かべる。明星もこの場で犯人を見つけ出せないと踏んだのか同意するようにうなずいた。
「ではここで一度解散しますか。相川さん、あとはお願いします。」
「わかりました。必ず犯人を見つけ出してみせます。」
「やっと帰れるわ!その二人目の女、第二夫人になるのが嫌だったのかしらね?」
「まあ捕まえた後に聞いてくれますよ。」
五人は帰りだそうと荷物をまとめ始める。相川は部下に指示を出そうとして歩き始めたところ有太郎に大きくぶつかった。
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