ジュリエットは怨恨の心を知る4
別にセックスしたかったわけじゃない。彼と私だけで同じ時間を過ごせられればそれでよかった。でも彼はそれを望んでいなくて、私の世界には彼しかいないのに彼の世界は私だけじゃない。体目的ばかりのほかの女とは絶対に違うのに彼はそれがわからない。何度も伝えているのに信じてくれない。
だって魅力的でしょう?愛するただ一人の女と一生添い遂げるの。何物にも代えられない幸福と快楽。それをなぜ受け入れてくれない?
なんで?なぁんでぇ??
「だってあんたがやったんでしょ!」
まっずい!ほんとにまっずい!!高原がさらにヒートアップしてきた。最初の方は宥める人もいたが、私への疑心が出てくるとそれもなくなりただ高原の叫びを見るだけになっている。私もやってないことを説明しようとしたが、女性目的に通常車両に乗り込んだことを誰にも信じてもらえず、周りからの疑いを助長するだけに終わってしまった。
「少々よろしいでしょうか。」
バッグの中身を見終わったのか相川と美少女が帰ってきた。相川が一変した場を切り裂いて声を上げる。それを受けて高原が相川に訴えた。
「やっと帰ってきた!ねえさっさとこの人捕まえてよ!」
「証拠もないのに逮捕はできません。あとこちらの人間から自重するように伝えたはずです。」
相川が睨みを効かせて高原に話す。流石に警察の睨みは効いたのか高原もうっ、と言葉に詰まった。助かったか?いやそれでも周りからの目は変わらない。高原含め私のことをまだ疑っているようだった。
相川が続ける。
「実は凶器がまだ見つかっていないのです。犯人がまだ凶器を持っている可能性があるので皆さんの持ち物検査とボディチェックをさせてください。」
「えぇ!?私たちだけ!?」
「もちろん皆さん以外の乗客の方には既に実施しています。後は皆さんだけなんです。」
相川からの突然のお願いだった。唐突だったのと身体検査であることからか消極的な様子の4人だったが、ここで茶髪のおばさん、輪島が声を出す。
「であれば彼からやってくれませんか?凶器が出てきたら私たちはやる必要ないですよね?」
思いっきり私を疑っていた。
「まあいいでしょう。どっちみち男性なのでこの場でボディチェックはできないですしね。」
まじか。こちらにどうぞ、と言われ別室に連れていかれる。そこから検査が始まったが別段やましいことはないし、ボディチェックで女性に触られたものの少し我慢すれば終わった。さっきの部屋では他の4人が検査を受けているらしく待ってほしいと告げられた。
おとなしく待っているとどこからかあの白黒の美少女がニタニタしながらこちらにやってくる。なんやこいつ。
「先ほどはどうも。どうやら疑われているようですね?」
「ええ…。まあ…。」
「そこでこの名探偵たるボクからの提案なんですが、ちょっと協力してくれません?」
「え?」
「やってくれたらこのボクが犯人をズバッと見つけて差し上げますよ?そうなればあなたも疑いが晴れるでしょう?」
彼女から提案とやらの説明を受ける。正直なんの意味があるのかよく分からないしやりたくもない内容だった。
「やりたくないんですけど…。」
「何故?これで犯人がわかるのですよ?そして鮮やかで!艶やかで!愛愛しい!このボクの名推理を聞くことができるのです!」
「阿保らしいっすね。」
「うるせぇ!」
ぷんぷんと怒り出す彼女。なんか面白い。
「でもこのままじゃ貴方あの4人に不利な証言をされちゃうかもですよ?今度はボクも助けませんからね?」
「えぇ…。」
したり顔でこちらを脅す美少女。それは困るかな…。
「わかりましたよ。やります。さっき言ってたことでいいんですよね?」
「はい!それでいいのです!素直にボクの言うことを聞いてください!」
私が要求を吞んだ瞬間機嫌が戻り、ふーんと彼女が胸を張った。そのままこちらに背を向け先ほどの4人のところに戻ろうとする。そういや一つだけ気になることがあったことを思い出し私は声をかけた。
「すいません。そういや名探偵って?」
「ああ、自己紹介してませんでしたね。」
濡鴉のような黒髪を揺らしながら少女はこちらに顔を向ける。前世今世問わず万人を魅了する彼女は私に、世界に向けて自身の存在を発露した。
「名探偵、天神明星です。以後よろしく?」
後の彼女にとっては世界に二つとない運命的なものだと感じるであろうこの出会い。私にとっても忘れることのできない瞬間であったものの、それでもこの時には確かに恋も愛もなかったのだ。
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