番ひ鳥の煌々風切羽4
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「覚えておきなさい。」
「この世にはね、愛なんてないの。」
「愛なんて無くても生きていけるようになりなさい。」
物心ついたときには父親はいなかった。それ自体は珍しいことじゃない。むしろ父親と頻繁に会える子供の方が稀有なことだ。
山の上の邸宅。アンティーク調で統一されたその家の中で、私は使用人の女性に声を掛けている。
「に、西川さん?今日お母さんは?」
「奥様でしたらお部屋でお仕事をされています。何か御用が?」
「いや…。もうずっと会ってないから…。」
「お忙しい方ですので。要件が以上でしたら、私はこれで。」
「あっ、いや。西川さん。」
「…何か?」
「えーと、今日のごはん何かなって…?」
「…」
西川さんはその言葉を聞いて少し息を吐くと、何も言葉を返さず去っていった。…部屋に帰ろうか。
家ではずっと一人だった。同じ家にいるはずなのに、母と会う日なんてそうそうなかった。使用人の人たちもいたが、最低限のことしか話をしない。声をかけてもすぐにどこかに行ってしまう。無視されることもザラだった。
ある都内の中学校。教室の中で何人かの生徒が話している。そばの机では私はその様子を見ていた。
「でさー、ヒロ君がさぁー。」
「えぇっ、本当!?」
「そうなの!…あ!そうだ!またヒロ君に一緒にご飯食べようって言いに行こう!?」
「あんた、またヒロ君に嫌われるよ?」
「いいじゃん!私が一緒に食べたいんだから!明星さんもどう?」
「…私はいいかな。」
学校では私はなんでもなかった。女子の話題は僅かにいる男子生徒ばかりで、正直ついていけなかった。いや、他の生徒ほど熱を持てなかったという方が正しいかもしれない?少し話したりしたときはそりゃちょっとはドキドキしたが、そこまでだった。休み時間になるたびに男に会いに行く女子たちの中に入ることはできなかった。
ただただ寂しかった。誰も私を見てくれなくて、皆の興味は他にあって。
でもどうしたらいいかわからなくって。
その頃だったかな、あまりにも私を見てほしくて一人称を変えてみたのだった。
「ぼ、ボクはこっちの方がいいかな…。」
「あー、そっちなんだね。…ん、ボク?」
「えーやだ、天神さん、ちょっと可愛い!」
家ではそれすら無視されたが、学校では思いのほかウケが良かった。短い髪も相まって少し男ぽかったのが良く見えたらしい。
初めて自分が話題の中心になって嬉しかった。人に見られることがこんなに嬉しいことなのだと知った。
でもすぐに飽きられてしまった。話題の中心はまた男に移っていき、もうそこに私はいないのだった。
何で他の人たちは寂しくないのだろう?なんで満たされているのだろう?
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