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番ひ鳥の煌々風切羽3

https://twitter.com/Wakatsukimonaka

お久しぶりです。

 阿須原さんから呼び出され部屋の外に出ると、そこには明星先生もいた。変わらず暗い顔をしている先生だったが、それに構わず阿須原さんは一冊のファイルを差し出す。


 「何ですか、コレ?」

 「読めば分かります。必ずお二人で読んでください。」

 「…どうしてコイツと読まないといけないのですか?」

 「いいからお二人でお願いします。」


 そういって押し付けるようにファイルを先生に渡し、阿須原さんはそのままどこかに行ってしまった。…どうしたものかなぁ。

 先生は深いため息を出してから私の方に向いた。


 「…しょうがないです。ボクの部屋に行きますか。」

 「ああ、いいんですか?」

 「しょうがないと言ったはずです。」


 明星先生は自分の部屋に入っていく。許しがあるので私も中に入った。

 隣同士のこともあるのか、明星先生の部屋は私のものと構造は同じのようだった。部屋の小さなテーブルに通され、先生はそこにファイルを広げる。


 「これは?」

 「裁判の記録?内容は…離婚裁判?」


 ファイルの中身は離婚についての裁判の記録だった。17年前の裁判で、天神春子さんと天神福助さんが争ったらしい。かなりの長期間にわたって裁判が行われており、両者ともに離婚の意思はあったが、親権についてかなり揉めたようだった。つまり明星先生の父母が当時1歳である明星先生の親権を奪い合ったことになる。


 「明星先生…?」

 「ボクの親権を賭けて裁判した?あの人がボクの親権を欲しがった?何を…なにを言ってるの…?」


 資料を読んで明星先生は愕然としている。そういえば春子さんは先生にかなり冷たく接していた。それに先生も春子さんに良い印象は持っていなかったように見える。…そんな母が自分を欲しがっていたなんて信じられないなんて信じられないということか?


 「大丈夫ですか、先生?すごい顔色悪いですけど…。」

 「知らない…。気持ち悪い…。何でそんな…。…ボクを苦しめるため?」


 顔を俯かせ、目を見開いたままうわ言のように小さい声で何かを呟いている。そのまま何かに気づいたように顔を跳ね上げると、急に私の手首をつかんだ。そのままどこかに私を連れて行こうとする。


 「えっ!?ちょっ、先生!?」

 「帰ります!車を出して!」

 「先生!?い、一回待って、先生!」


 すごい力で私を引っ張っていこうとする先生。それを私は一度制止する。

 キッと先生はこちらに顔を向けた。…ひどい顔だった。畏れ、怒り、憎しみ、恐怖。負の感情を押し込んだような顔をしながら手を震わせている。


 このままじゃきっとダメだ。ここで帰れば彼女はきっと壊れてしまう。そんな気がした。

 阿須原さんの言葉の意味を遅れて理解しながら、彼女の手を握りなおす。


 「先生、一度考え直してみませんか?」

 「…そんな必要ないです。もうここにいたくないです。」

 「ここで帰れば多分何も変わらないです。」

 「…お前にぃ!何がわかるんだよぉ!!!ボクの何がぁ!!!!」


 彼女は激しく激昂した。私を睨みつけながら、それでも私の目を見れずに、心の奥に押しとどめていたものを零れ落としていた。


 「…じゃあ教えてください。」

 「…」

 「明星先生の見てきたこと、思ってきたこと、過去。…今感じていること。私に教えてください。」

 「…」

 「そうしたら一緒に考えられるじゃないですか。」


 そうして私は握る手をさらに強めた。私の存在がわかるように、伝わるように強く。強く。





 天神春子の書斎。仕事場でもあるその部屋は、集中する彼女の為に普段は扉が開かれることは少ない。しかし今日は訪ね人が多いからか、4度目の客人を迎え入れていた。

 天神春子は椅子に座ったままでいる。そんな彼女の目線の先には一人の男性がいた。よれた服を着た男性は切れ長の、どこか疲れが見える目で春子を見ている。


 「…まさか貴方まで来るなんてね。」

 「あんな手紙を送ってきたのはお前だろ。少しは顔も見に来る。」

 「別に来てほしくて出したわけじゃないわ…。すべてキレイにしたかっただけ。早く帰って頂戴。」

 「ふん。…外に車があった。お前の趣味じゃないだろ。誰のだ?」

 「関係ないでしょ。」

 「…」

 「…はぁ。あの子のよ。私が呼んだ。」

 「…そうか。」

 「わかったなら早く帰って。早く」

 「…悪いが、今日は泊らせてもらう。」

 「警察を呼ぶわよ。」

 「少し見るだけだ。名乗りもしない。頼む。」


 睨みつけるような目で、少し横柄な態度をとっていた男は、姿勢を正した後春子に向かって深く頭を下げた。春子はそれを心底嫌そうな顔で見ていたが、やがて諦めたように息を吐いた。


 「食事は出さないわ。あと自分の車で寝なさい。」

 「わかった。」

 「…決して自分が父親だなんて言わないで。」


 吐き捨てるように男に言った春子は男から目を離した。男はそれに頷きもせず、部屋を出ていくのだった。


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