いつか思い出のカンパネルラ4
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明星先生の調子も戻りそろそろ帰ろうかと思ったところ、座っていたベンチのそばにとある店があることに気づいた。最近はなかなか見ないお店であり、是非見ていきたい。でも先生足痛いだろうしなぁ…。いやそもそも何で足痛いのにスイーツ食べに来ているんだという話でもあるが。
「…何でこの店をそんなに凝視しているのですか?」
「えっ!?あ、いや、何でもないですよ。」
「この店見ていきたいのですか?まぁ、ちょっとぐらいならいいですよ。」
「いえ、大丈夫ですって。」
「ボクが甲斐性なしみたいになるじゃないですか。ほら行ってこい。」
「えぇ…。じゃあ、ありがとうございます…。」
そんなことがあって入った店は中古のCDショップ。店内の棚には少し茶色がかったカバーのCDが所狭しに並べられている。昨今ではCDの需要はどんどん下がっていくばかりだが、何せ私はそろそろ精神年齢が60歳になる。こういった昔を想起させてくれるものは大好物だし、先の時代の音楽はまだ電子データ化されてないものもあったりする。カセットテープ?もう磁気テープを鉛筆で巻きたくねぇよ…。
CDを物色していると、明星先生が店の中に入ってきた。
「あれ、先生?休んでていいですよ?」
「暇なのです。それにちょっと歩くぐらいなら大丈夫ですよ。」
そういって物珍しそうに古めのCDを見る明星先生。私も棚に目を戻すと、一つのCDが目についた。基本的にこの世界の歌謡曲は女性が歌っているもので、前世のものと似ているものはなかなかない。そんな中このCDのケースには男性の姿が印刷されており、少し興味を惹かれた。ケースをひっくり返し値段を見てみると…、うげっ、何だこれ。
とてもCDとは思えない値段が値札のシールに刻まれていた。どうやら価値はかなり高いらしく、流石に買えない。このバイト賃金全然良くないし。
私が惜しむようにCDを戻すのを、明星先生は不思議そうに見ている。
「あれ?買わないのですか?」
「思ったより高かったです。…もう十分です。帰りましょうか。」
「ふーん。」
あれよりほしいと思う物も見つかる気もしない。明星先生に言って帰ることにし、二人で店を出た。
駐車場方面にモールの中を歩いていると、急に明星先生が止まった。
「ちょっとお手洗いにー。」
「ああ、はい。行ってらっしゃい。」
そういって来た道の方へ戻る明星先生。少し待っているとすぐに帰ってきた。
「お帰りなさい。」
「じゃあ、行きますよ。」
そしてしばらく歩くと車までたどり着いた。運転席に座って発進の準備をしていると、助手席の明星先生が何やらゴソゴソとしている。見ると先生のカバンからあのCDが出てきていた。えっ!?
車のCDプレイヤーにCDを入れ再生ボタンを押すと、前世を思い返させるメロディーと歌声が流れ出す。
「これ…、どうしたんですか?」
「うん?まぁ、ちょっとしたお礼です。」
ゆっくりとした旋律とどこか寂しさを感じさせる歌詞。故郷に帰るのに似た感覚を味わいながら、私は明星先生の方に顔を向けた。
「…ありがとうございます。本当に、本当にうれしいです。」
「あっ、コレお前にあげるわけじゃないですよ。」
「え?」
そういって意地の悪い笑顔を私に見せる明星先生。
「これはボクのものです。そして事務所にCDを流せるものなんてありません。これがどういうことか分かりますか?」
「…どういうことでしょう。」
「つまりこれをお前が聞きたいと思ったら、この車に乗るしかないのです!」
「…」
「というわけでこれからもボクの運転手を頑張ってください!」
「嘘だろ…。」
ああ、もう!少しは見直したのに!
調子づく先生が高笑いする中、私は小さな怒りと共に車を発進させた。
ノスタルジーの音が響く車内で、少女の大輪のような笑顔が咲いたまま。
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