境界剝離、ブラックアウト9
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黒鍋近代鉄道の土地から出た後、相川さんたちと情報共有をすることになった。車を少し走らせたところにある空き地に集合して、お互いの持っている情報を伝え合う。
まずは相川さんが調べたことを教えてくれる。
「私たちの調べたことから教えようかな。商店街から周囲一帯の監視カメラや目撃者を調べたんだけど、犯人の逃げる様子や方向は一切分からなかったんだよね。どこに行って、どこに逃げたのか全然わからなかった。」
「一つ目の大木さんが殺された事件と似ていますね。犯人は人や監視カメラに見つからずに逃走した。」
「うん、それで一つ目の事件の犯人にもう一度取り調べをしたんだけど、結局何も吐かなかったんだ。…これが私たちの把握していること。何にもわからなかったんだよねぇ。」
本当に相川さんは悔しそうだ。周りの刑事さんたちも歯痒そうにしている。
次は私たちが調べたことを伝える番だ。遥空に言ってパソコンを準備してもらう。見せるのはあの天神さんとフードの人の会話だ。
「これ見てもらってもいいですか?このフードの人が確認されている犯人の姿と同じかどうかを確かめてほしいんです。」
「…なんでこんな映像持ってんの?」
「探偵パワーです。」
相川さんたちに映像を確認してもらいながら、撮影した時の状況を伝える。
映像を見終わった後、相川さんはため息を一つ吐いてから言葉をつづけた。
「現場から逃げた犯人の姿と合致してる。状況だけ見るなら現場から逃げた犯人を神崎さんが迎えに来たってことになるね。」
「やっぱりそうなりますか…。でもこの場所って事件現場の近くから20分ぐらい車で移動したところなんですよ。」
「だいぶ離れてるね。それにそっち方面は大木さんの事件の犯人が逃げた方向でもあるんだ。だから監視カメラとかも確認してるんだけど…、フードが移動したっていう痕跡は一切なかったね。」
「そうなんですか…。一度整理しても?」
「是非そうしてくれると助かるよ。」
話が複雑になってきたので、一度整理することにする。
「まず、商店街で黒鍋近代鉄道の運行を管理する部署に勤める大木さんが刺殺されました。犯人は顔が割れていたので現場から30キロ以上離れたところで見つかり、そのまま逮捕された。しかし、現場から逮捕された場所まで犯人は一切監視カメラに写ったり、目撃されることはなく、まるで透明人間になって移動したようだった。」
「そうだね。それで結局犯人はどうやって移動したのか言わなかった。」
「そして捜査する警察は大木さんの話を聞きに黒鍋近代鉄道に訪れます。そこで大木さんの後輩の稲垣涼香さんが警察に明朝に相談したいという手紙を渡しました。」
「実際は君たちに渡したけどね。」
「しかし、稲垣さんは約束の時間の前にまた商店街で射殺されました。犯人はその場から逃走しますが、カメラに映るなどの痕跡がなく、一つ目の事件同様犯人の足取りが一切分からなくなりました。」
「しかも今度の事件では犯人を捕まえることができていない。」
「犯人は窓のある何かの乗り物に乗って移動し、現場からだいぶ離れた線路沿いの場所に潜伏していました。それを黒鍋の社員の神崎さんが迎えに行った。…こんなところですかね。」
「そうだねー。あぁ、なーんにも分からない!誰にも見つからずに移動できる手段って何―!?」
相川さんはたまらず叫び出した。その声に遥空がビクッとする。
「うわっ、びっくりしました…。」
「ああ、ごめんねぇ。つい。」
「まあいいですけど…。でも先生何か考えついてるんじゃないんですか?じゃないと昨日私に鉄道の運行状況を調べてくれなんて言わないでしょうし。」
「運行状況?」
「ああ、まあな。相川さん、調べてほしいことがあるんですけど。」
「うん?何?」
「商店街の近くの踏切からフードの人が隠れていた場所までの、どこでもいいので線路が映っている監視カメラを探して確認してほしいんです。できれば黒鍋の関わってない奴。」
「え?まあ一帯のカメラは把握してるからすぐに調べられるけど。どうしてそんなことを?」
相川さんが不思議そうに尋ねてきた。その理由を答える前に一度頭の中の推理を確かめ、考え直す。
目を閉じ、息を大きく吸って。コートの腰につながっているディアストーカーを強く握る。…これまでのすべてのことを頭に巡らす。
大丈夫そうだ。
私は目を開けて自分の推理をみんなに伝えた。
「…なるほどねぇ。まあ筋は通ってるねぇ。」
「それだったら先生、犯人ってもしかして?」
「ああ、そうなるだろうな。」
「じゃあなるべくそれを裏付けられるように調べてみるよ。」
納得したように頷いてくれる相川さん。そのあと少し険しい顔をして彼女は続ける。
「調べて確証を得られたら、すぐに犯人を確保に行くよ。荒事になりそうだから、特殊班の動けそうな人もみんな連れていく。…サミットが近いせいであんまり動かせそうにもないけど。」
「だったら相川さん。先に神崎美穂さんを呼び出して、彼女と話させてくれませんか?」
「…なんで?」
「推理の最後の裏付けもありますが、私の考えだと彼女はどちらかというと被害者だと思っています。それに…。」
私はできるだけ相川さんの目に負けないようにして言葉を紡ぐ。
「私は探偵なので。」
しばらく相川さんは私の目をじっと見ていた。少し眉間にしわを寄せた彼女に気圧されそうになるが、心を踏ん張らせて耐える。
少しして相川さんはふっと力を弱めた。
「ふぅん。まあ調べてくれたご褒美かな、好きにさせてあげるよ。」
「ありがとうございます。」
「ふふっ、君はやっぱり彼女とは違うね。」
許しは得られた。後は舞台を整えるだけ。
相川さんたちは調べに行くのか車に乗っていくが、相川さんだけこっちに来て私の肩に手を置いた。
「頑張れ、名探偵。」
それだけ言って相川さんは車の方に戻って乗り込んだ。そうして彼女たちは続々と車を発進させていった。
…少し、背筋が伸びた気がする。
何故かにやにやしている遥空を横目に私はあの人に電話を掛けた。
「もしもし、徳人さん?」
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